Special Report

日EU防衛産業協力を活かし日本の防衛力強化を

田辺 靖雄
コンサルティングフェロー

本年4月17日、ブリュッセルにおいて初の日EU防衛産業対話が日本航空宇宙工業会(SJAC)と欧州航空宇宙防衛産業協会(ASD)の共催により開催された。それをも受けて6月17日に日欧産業協力センター(EUJC)主催の「日EU防衛産業協力の現状と展望」と題するウェビナーが行われた。

両者に参加した筆者のテークアウェーと所感を以下に述べてみたい。

まず、日EU防衛産業対話とはどのようなものかみてみよう。

2025年7月に行われた日EU定期首脳協議の共同声明付属書において、
「防衛産業基盤を強化することが日 EU にとって共通の優先事項であることを認識し、 双方の防衛産業が主催する日EU防衛産業対話を立ち上げること、および安全保障・防衛 パートナーシップ実施の文脈を含め、防衛産業分野におけるさらなる協力を期待する」
ことがうたわれた。

つまり、産業界主導の動きを日EUの首脳が歓迎し期待を表明している。

これを受けて本年4月にブリュッセルで初の日EU防衛産業対話が行われた。日EU双方の産業界が立ち上げたこの対話には、アンドリウス・クビリウス欧州委員会防衛・宇宙担当欧州委員、井野俊郎経済産業副大臣および防衛省代表、日本およびEUの防衛産業および業界団体が参加し、活発な議論が行われた。

そして結果的に
「防衛産業基盤の強化がEUと日本に共通する優先課題であり、ますます厳しさを増す安全保障環境の下において、パートナーシップを通じた安全保障の強化が不可欠であるこ とを認識し、日EU間のデュアルユースを含む防衛分野のサプライチェーン強靱化(きょうじんか)という共 通の関心を表明するとともに、防衛産業分野に関するさまざまな協力を進めるためさらなる意見交換を進めていくことを確認する」
ことがうたわれた。

EUJCウェビナーでの日本航空宇宙工業会(SJAC)の藤野琢巳専務理事の説明によれば、本件は同工業会が欧州側の航空宇宙防衛産業協会(ASD)に働きかけて行われたとのことである。産業界主導で日EU両政府のトップまで巻き込んで日EU防衛産業協力のモメンタムをつけたこの日本側のイニシアティブに対して敬意を表したい。

さて、筆者のテークアウェーと所感を以下に述べたい。

第一に、EUは防衛費を増加し防衛装備を増強すること、そしてその米国依存度を低下させることが急務であるが、域内防衛産業基盤強化のためには、自律的なサプライチェーンの構築を含めて大きな課題がある。

EUは、2022年のロシアのウクライナへの侵攻、近年の米国の欧州、北大西洋条約機構(NATO)に対する態度を見て防衛力強化の必要性を痛感し、2025年にNATOとして合意した5%目標を目指している(2024年の防衛費は対GDP比1.9%の約3,430億ユーロ(European Defense Agency))。

これに向け2025年3月には欧州委員会として「欧州再軍備計画(ReArm Europe)」において4年間8,000億ユーロ規模の防衛投資策を公表している。

このようにEUの防衛費は拡大傾向にあるが、大きな悩みは防衛調達における米国依存の高さである。2024年3月のEU防衛産業戦略によれば、2022年中頃から2023年中頃までの間に、EU全体の防衛関連の発注の63%がアメリカ企業からであったとされる。

このような中で、昨今の米国の欧州への態度をみて、EUとしては、防衛装備における高い米国依存度を引き下げる必要を認識している。

しかしながら、EUは長年の米国依存状況のために域内での防衛産業基盤は、サプライチェーン面、人材面、技術面、研究開発面で脆弱(ぜいじゃく)である。これを挽回するためにReArm Europe等のプランにより、EUベースでの共同調達や財政的支援等の措置を駆使して防衛産業基盤の増強を急務としているわけであるが、これはなかなか一朝一夕にはいかない課題である。

第二に、そうであるが故に、EUとして防衛産業基盤強化に向けて域外のパートナーとの協力関係が必要であり、その際、同じ価値観を共有し、強固な産業技術基盤を有する日本は、EUにとって最適の「信頼できるパートナー」(trusted partner)であると見ている。

EUが日本を信頼のできるパートナーとして重視する傾向は、近年の世界的な地政学的状況を踏まえて、年々強まっている。実際、日本とEUの関係は、2019年の経済連携協定(EPA)、戦略的パートナーシップ協定(SPA)発効の後も、2021年日EUグリーンアライアンス、2022年日EUデジタルパートナーシップ、2024年日EU安全保障・防衛パートナーシップ、2025年日EU競争力アライアンス等さまざまな分野でパートナーシップ、協力関係が強化されている。

今回の日EU防衛産業対話においても、そこに至る過程でも、日EU間の防衛産業協力について「共通の関心」「共通の課題」「共通の取組」であるとの主張がしばしばEU側から強調された。そこにはEU側の日本に対する期待の大きさが表れている。

またクビリウス欧州委員が日EU間の産業間対話に出席するという姿勢にもEUの日本に対する期待の強さが感じ取れた。

防衛産業分野でのEU側の日本に対する期待の大きい最たる分野がサプライチェーンであろう。

EUの防衛産業のサプライチェーンは、長年の米国依存に加えてコロナ禍でのリストラ等の影響もあり、非常に弱体化している。砲弾等のハードな軍需品に加えて半導体等の電子部品、センサー、モーターなどの特殊部品、鋳造品や特殊鋼等の素材等数多くの部素材での生産能力に不足感がある。

これに比べて、日本では、藤野SJAC専務理事から説明があったように、航空機産業の従業員数はコロナ禍を経験してもおおむね安定しており、一定の産業規模が保持されていることがみてとれる。したがって、 EU側がこのような安定的な産業基盤を有する日本を頼ろうとするのは自然な流れである。

第三に、日本としては、EU側の日本に対する期待が大きいという状況をテークアドバンテージし、EUとの間で防衛力強化のためのウィン・ウィンの関係を築くべきである。

「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」(岸田元総理)と言われるように、日本を取り巻く安全保障環境は近年厳しさを増している。この環境の下で日本の防衛産業能力の強化が求められている。

ウェビナーで経産省古市企画官から報告があったように、防衛産業を取り巻く環境は大きく変化している。すなわち、ウクライナでの戦争に見られるように、長期戦を想定した軍需品の生産能力の継続的維持、無人機(ドローン)・宇宙等のデュアルユース技術の活用、重要鉱物および派生製品の輸出規制等によるサプライチェーン・リスクへの対応が急務となっている。

日本と欧州のウィンウィンの防衛産業協力の象徴的な事例が次期戦闘機の共同開発事業GCAP(Global Combat Air Program)であろう。そこでは日英伊の3カ国政府の運営委員会の下で予算(トータルで8~10兆円程度と見込まれている)が拠出され、日本企業、英国企業、イタリア企業による共同開発が進んでいる。

GCAPは、日本にとっても欧州にとっても、米国の戦闘機調達に頼らない自前の戦闘機を開発するという双方にとって画期的な戦略的プロジェクトである。

GCAPのような大型軍事品開発に加えて、デュアルユース技術の活用面では、ウクライナでの戦争に直接関わっている欧州の経験を日本として活用することも有用であろう。

例えば、ドローンの製造や運用ソフトの分野ではウクライナや欧州に数百社もの企業特にスタートアップ企業が活躍しているとみられる。日本でもこれら分野でのスタートアップ企業は存在する。これらのデュアルユース技術スタートアップ企業の日欧間協業は相互にメリットがあり、今後の防衛産業基盤の有力なプレーヤーとなろう。

また、商用の衛星コンスタレーションを活用した監視/位置測定機能も欧州企業によるものが進んでいるとみられる。これらの企業等との協業を進めることで日本の防衛能力も高まることが期待される。

日本においても、今回ウェビナーに登壇した3社(オーシャニック・コンステレーションズ社、大熊ダイヤモンドデバイス社、スペースデータ社)のようにデュアルユース技術を活用したスタートアップ企業が多く出現しており、いずれも欧州企業との協業を志向していることは心強い。

これら日本の大企業もスタートアップ企業も、EU側が日本企業との協業を強く望んでいるという地合いを生かして、防衛産業に関する日EU間のウィン・ウィンの関係構築に努めることが期待される。

第四に、日本として欧州/EUとの防衛産業協力を進めるに当たっては、それに対する国民の理解を得るための不断の努力が官民の関係者に求められる。

防衛産業はいわば戦争(の回避)のために必要な産業であり、海外との防衛産業協力はいわゆる武器輸出にも当たりうる。

いわゆる武器輸出すなわち防衛装備移転に関しては、長く抑制的規制(救難、輸送、警戒、監視、掃海という5類型のみ移転が認められる)があったが、本年4月に5類型を撤廃する政府決定がなされ、装備移転が原則として可能となった。ただし、輸出先は日本と安全保障面で協力関係にある国に限られ、輸出先国には事前の同意や適正な管理が義務づけられ、戦闘中の国への輸出は認められない。

防衛産業の強化、海外との産業協力は、デリケートなテーマであるだけに、経済界特に金融界、学界、そして一般国民の間にも慎重な立場をとる傾向がある。金融界では長い間防衛産業分野への資金提供を持続可能な開発目標(SDGs)の原則に反するとして忌避する傾向があった。学界でも1950年代、60年代に日本学術会議が「戦争を目的とする科学研究は行わない」との立場を明らかにして以降、学術界は軍事研究と距離を置いていた。また、当該産業界にもレピュテーション・リスクを気にして防衛産業に従事していることの積極的な発信を控える傾向があった。

このような傾向は近年変化しつつある。特に2022年のロシアのウクライナ侵攻後はその傾向は変化している。欧州では、国を守る活動はサステナビリティの基本であり、企業としても社会的責務であるとの論調が現れている。また、宇宙・AI・量子技術などのデュアルユース(民生・軍事両用)技術の重要性が認識されるようになったことも大きい。

日本および東アジアを取り巻く安全保障環境が近年厳しさを増していることは明らかであり、したがって日本として防衛力の強化は避けて通れない課題である。その主役であるべき防衛産業界が世間で後ろ指を指されないような環境を形成するよう政府、産業界は積極的な社会啓発活動を行うべきであろう。

(文中の意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。)

2026年7月15日掲載