EBPM Report

EBPMへの日本企業の見方

森川 正之
副所長

エビデンスに基づく政策形成(EBPM)を推進していく上では、国民や企業からの支持が重要である。そうした観点から、以前、個人を対象にEBPMについての認識を調査した(森川, 2017参照)。その結果によれば、EBPMの認知度は高くなかったが、高学歴者、特に理科系出身者は、EBPMの必要性への意識が高いなど個人属性による違いが見られた。

教育、雇用など個人を対象とした政策分野だけでなく、法人税制、通商政策、企業法制、研究開発支援政策など主に企業を対象とした政策もEBPMの対象となるのは当然である。そこで、本稿では、日本企業を対象に最近行った調査の結果の要点を紹介する。調査実施時期は2019年1~3月、回答企業数は2,528社である(注1)。EBPM関連の設問は、個人を対象とした調査と比較できるよう、設問および選択肢の文言を同じにしている。

結論を先取りすると、企業の中でもEBPMの認知度は必ずしも高いとは言えず、政策現場におけるEBPMへの意識や実行には必ずしも肯定的な評価ではなかった。EBPMの障害として多数の企業が挙げたのが、「政策がエビデンスと関係なく政治的に決まること」だった。EBPMのプライオリティが高い政策分野としては、①社会保障政策、②雇用政策、③税制を挙げた企業が多い。

EBPMの認知状況を集計したのが表1-1である。設問の文言は、「エビデンスに基づく政策形成についてご存知でしたか」である。「良く知っている」4.7%、「聞いたことはあるが良く知らない」54.0%、「聞いたことがない」41.3%であり、企業にもEBPMという概念はまだ十分浸透しているとは言えない。ただし、実施時期が異なるため厳密な比較はできないが、国民一般を対象とした調査結果では「聞いたことがない」という回答が過半数だったので、企業の認知度の方がいくぶん高い(注2)。

以下ではこの設問に「聞いたことがない」と回答したサンプルを除いて集計した結果を報告する。EBPMの必要性についての見方を集計したのが表1-2である。設問の文言は、「エビデンスに基づく政策形成が必要だと思いますか」である。「必要だと思う」16.4%、「ある程度必要だと思う」44.1%であり、「あまり必要ないと思う」、「全く必要でないと思う」という回答はごく少数である。ただし、「何とも言えない/わからない」という回答が36.4%と比較的多い。

政策現場でEBPMが意識されていると思うかどうかを尋ねた結果が表1-3である。設問の文言は、「日本の政策現場において、政策の企画・立案に当たり、エビデンスに基づく政策形成が意識されていると思いますか」である。EBPMが「意識されていると思う」0.9%、「ある程度意識されていると思う」22.9%に対して、「あまり意識されていないと思う」34.0%、「全く意識されていないと思う」3.6%であり、どちらかと言えばネガティブに見ている企業の方が多い。ただし、他の設問と同様、「何とも言えない/わからない」が38.6%とかなり多い。

政策現場におけるEBPMの実行についての見方を集計した結果が表1-4である。設問の文言は、「日本でエビデンスに基づく政策が、現実にどの程度行われていると思いますか」である。EBPMが「行われていると思う」0.3%、「ある程度行われていると思う」19.9%に対して、「あまり行われていないと思う」36.3%、「全く行われていないと思う」2.7%であり、やはりネガティブな見方の方が多い。

表1:EBPMについての見方
企業 (参考)個人
1. EBPMの認知 良く知っている 4.7% 8.2%
聞いたことはある 54.0% 39.8%
聞いたことがない 41.3% 52.0%
2. EBPMの必要性 必要 16.4% 20.0%
ある程度必要 44.1% 50.6%
あまり必要ない 2.8% 12.7%
全く必要ない 0.3% 1.2%
何とも言えない 36.4% 15.5%
3. EBPMの意識 意識されている 0.9% 5.1%
ある程度意識されている 22.9% 26.2%
あまり意識されていない 34.0% 41.8%
全く意識されていない 3.6% 10.2%
何とも言えない 38.6% 16.8%
4. EBPMの実行 行われている 0.3% 3.8%
ある程度行われている 19.9% 22.2%
あまり行われていない 36.3% 47.4%
全く行われていない 2.7% 8.6%
何とも言えない 40.7% 17.9%

EBPMを阻害している要因について尋ねた結果が図1である。設問の文言は、「エビデンスに基づく政策形成を妨げるものは何だと思いますか」である。複数回答なので、合計は100%を超える。「政策がエビデンスと関係なく政治的に決まること」が66.3%と圧倒的に多く、次いで「統計データの解析や研究を理解する能力が政策現場に不足していること」35.3%、「そのような慣行や組織風土がない」34.2%が多い。以前に調査を行った個人サーベイの結果とかなり似たパタンである。

図1:EBPMの障害
図1:EBPMの障害

EBPMの必要性が高い政策分野を尋ねた結果が図2である(注3)。設問の文言は、「エビデンスに基づく政策形成の必要性、優先順位が高いと思われる政策分野を、以下の中から3つ以内でお選びください」である。やはり複数回答なので合計は100%を超える。選択した企業が多い方から順に、①社会保障政策(61.1%)、②雇用政策(45.8%)、③税制(30.9%)、④産業支援政策(25.6%)、⑤環境政策(23.4%)である。

やや意外だが、通商・貿易政策、研究開発政策、会社法制といった企業活動への影響が強いと思われる政策を選択した企業はそれほど多くない。

図2:EBPMの必要性が高い政策分野
図2:EBPMの必要性が高い政策分野

EBPMを根付かせていくためには幅広い国民の関心と支持が不可欠であり、データの整備やEBPMに寄与する研究の蓄積とともに、広報にも注力する必要がある。なお、以上は暫定的な集計結果の報告であり、今後、産業特性・企業特性との関係などについて検討を行う予定である。

脚注
  1. ^ 筆者が調査票を設計し、RIETIが(株)東京商工リサーチに委託して実施した「経済政策と企業経営に関するアンケート調査」である。調査対象企業は従業員50人以上の企業15,000社であり、回収率は16.9%である。
  2. ^ 個人を対象としたサーベイは、森川 (2017)で用いた調査の翌年の2017年10月に再度実施し、10,041人から回答を得たものである。
  3. ^ この設問は、個人を対象にしたサーベイには含まれていない。
参照文献

2019年3月15日掲載

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