祝 山口一男客員研究員文化功労者選出記念インタビュー

山口 一男
客員研究員

RIETI:
このたびは2020年度の文化功労者の選出おめでとうございます。60年の歴史のなかで、社会学で文化功労者に選ばれたのは森戸辰男氏、冨永健一氏に続きまだ3人目ですが、受賞されたお気持ちを一言いただけますか?

山口:
正確には社会学を広く定義すると、高田保馬氏、川島武宣氏、山岸俊男氏も社会学者と考えられるので、私が6人目となります。受賞の気持ちですが、大変光栄に思います。また日米で活躍された山岸氏を別とすると、これまでの社会学関係の受賞者はみな日本語での業績ですが、私の論文はその大多数が英文です。ですから、今回日本語での貢献は少ない私の米国での業績が評価されたということで、それを嬉しく思います。また私は統計分析モデルを開発して応用する社会統計学者でもありますが、過去に経済統計学の有沢広巳氏以外、統計・応用統計分野での文化功労者は出ておりません。その意味で統計や計量的社会・経済分析の研究者の励みになれば嬉しいと思います。ただ今回一つショックだったことがあります。今年の文化功労者に女性が一人もいなかったことです。過去にも学者の受賞者中女性は極めて少なく、学問の分野ですら女性の活躍が非常に限定的な日本社会の現状を改めて認識することになりました。

RIETI:
いま日本社会は新型コロナ問題だけでなく、超少子高齢化や女性の受ける社会的な不利益など、様々な構造的問題に直面しています。山口先生はこの点をどうお考えですか? また、政府の採るべき対策なども併せてお聞かせください。

山口:
安倍政権の「働き方改革」にはいわゆるウーマノミックスが含まれていました。女性人材の活用により、経済成長を進めるという考えです。これは極めて重要ですが、実際日本での女性の活躍推進は進み方が他国より遅々としています。最近ご存知のようにRIETIと東北大の共催で「人生百年時代のサバイバルツール」と題したシンポジウムを行い、私が基調講演を承って、そこで「ライフサイクル・デフィシット」の話をしました。詳しくはRIETIがウェブで公表するスライドやビデオを見ていただきたいですが、ライフサイクル・デフィシットは「『1人当たりの個人及び公的消費』―『1人当たりの勤労所得』」を年齢別に表し、ライフサイクルを通じたそのバランスを持続可能な社会の実現のために重視します。

いくつか政策提言していますが、その一つが黒字(所得が消費を上回る)から赤字に変る閾値年齢を高めることで、他の国に比べスウェーデンが大きく成功しています。成功の主な理由は女性の60歳以上の就業年数が長くかつ所得が大きいことによります。ここで大切なのは仕事の質だという点です。女性の活躍を真剣に考えるなら、スェーデンの事例は、日本社会が単に女性の労働参加率を高めるのではなく、女性の仕事の質を高めることで女性自らが仕事に大きなやりがいを感じられる社会に変わることが重要であることを示唆します。もう一点、ライフサイクル・デフィシットの黒字部分の拡大には労働生産性の向上とそれに伴う賃金の向上が欠かせないのですが、近年の日本企業の人件費削減による利潤の追求が、社会で人材が育たないという外部不経済を生み、またライフサイクル・デフィシットを悪化させ、社会・経済の持続可能性を低くしていることを指摘しています。反対に、米国やドイツの主力企業が新たな需要を生み出す人材育成という外部経済性をも生み出す企業戦略を取り、その結果マクロな経済成長と平均賃金上昇が比例的に連動し、ライフサイクル・デフィシット上も望ましい循環を生み出しているという指摘もしています。

新型コロナの影響については、12月に発表する新たなRIETIのDPで、日本のコロナ下での在宅勤務・テレワークの機会について、男性より女性に機会が少ないのですが、その理由が労働市場の構造的要因に帰することことを示しています。ですから、女性の活躍推進の上でも、持続可能な社会の実現の上でも、労働市場や企業戦略の抜本的改革の必要性を今後も訴えたいと考えています。

RIETI:
山口先生はこれまでRIETIのEBPM研究プログラムを通じ、日本におけるEBPMの導入をリードしてこられました。EBPMをこれから日本に定着させるためには、さらに何が必要でしょうか。

山口:
まず、米国の話をさせてください。今回オバマ大統領時代に副大統領だったバイデン氏が次期大統領になりますが、これはEBPMを重視する人々とって大きな朗報だと思います。EBPMはオバマ大統領時代に米国の内政に大きく活用されましたが、トランプ大統領はそれを反故にしました。トランプ氏は政策に対する科学的知見を毛嫌いし無視する大統領ですが、これは共和党政権でも異例です。バイデン氏の勝利は、科学を信頼し、EBPMを含む科学的知見を政策において尊重する、いわばノーマルな政治に米国が戻ることを意味します。さて、日本ですが、EBPMが日本に定着するには、政権が科学を重視し、その知見を尊重することが前提条件です。しかし、科学は「利用」しても「活用」する姿勢に欠けるのではないかと危惧しています。「利用」は自分の都合に合う科学的知見は使うが、合わないものは無視する態度で、「活用」は科学的知見を公正に政策に生かそうとする態度です。以前、私はRIETIで「PBEMを排しEBPMを促進すべきである」というコラムを書きましたが、それも同じ趣旨です。政権が科学を真摯に活用する姿勢を持つこと、これが最重要です。第2にEBPMを推進するには、その基本の考えを身につけた人材の育成が重要です。従来、事務官の専門キャリア化(プロフェッショナライゼーション)は日本では官庁エコノミストぐらいしかなかったと思うのですが、EBPMでも専門キャリア化が必要で、これは行政内の内部人材育成だけなく、官民学の有期の人材交流も促進する必要があろうかと思います。

RIETI:
最後に、今後のRIETIへの期待などをいただけたら幸いです。

山口:
そうですね、期待というより、過去約17年の私の日本研究はRIETIのサポートがなければできない物でした。改めて歴代の理事長、所長始め幹部の方々のサポートにお礼申し上げたいと思います。

2020年12月8日掲載