フェローに聞く

新型コロナウイルスと在宅勤務の生産性(動画)

森川 正之
所長・CRO

森川所長による新型コロナウイルス対策としてのテレワークの導入と生産性に関する解説をお届けします。
最新のアンケート調査で、在宅勤務の職種による生産性の違いを定量的・定性的に読み解きます。
森川所長のコラムも併せてご覧ください。

本コンテンツはrietichannel(YouTube)にて提供いたします。

プレゼンテーション資料 [PDF:139KB]


RIETIの森川です。ご参加いただいてありがとうございます。今日は新型コロナウィルスと在宅勤務の生産性についてお話ししたいと思います。

通勤時間が非常に長いにもかかわらず、在宅勤務を採用する企業の割合は非常に少ない。2019年にテレワークを採用している企業の割合は6%くらい。それから、もう少し前ですけれども日本の個人1万人くらいにサーベイしたのですが、テレワークをやっている人が6%、調査によって違いがあるとは思いますが、日本で在宅勤務をしている人は1割いなかった。

今回、新型コロナウィルスの問題で在宅勤務を採用している企業が急速に増えています。在宅勤務の生産性をいかに上げていくかということは、コロナウィルスのマイナスの経済的な影響を緩和するのに非常に重要な課題になりました。在宅勤務の生産性については海外でそれほど多くないですがいくつか研究がありまして、有名なのがNick Bloomたちがコールセンターの職員を対象にした実証実験で在宅勤務の生産性を高める効果があるという結果を出しています。

一方でBattistonたちの英国経済政策研究センター(CEPR)のワーキングペーパーの論文ですけれども、これは英国、マンチェスターの警察の緊急対応業務を対象にしたもので、こちらは職員が同じオフィスの中、同じオフィスの中でも近い位置に座っていることで緊急対応が非常に効率的にできるということを示していて、彼らは在宅勤務がこういう仕事では生産性にマイナスであるという結果を出しています。

この2つの仕事は非常に特殊な職業でして、今急速に増えているテレワークというのは一般的なホワイトカラーなので、そこで在宅勤務が生産性にどういう影響を与えているかは大変に関心があるところです。2年前に私のRIETIのディスカッション・ペーパーで、在宅勤務あるいはテレワークをやっている職員がどういう人かを調べた論文があるのですが、その中でテレワークをしている人は同じ学歴、年齢、性別でも賃金が高いという結果になっています。賃金は生産性の代理変数ですから、この関係だけでみるとテレワークが生産性を高める関係があるようにみえます。ただこれはクロスセクション・データですので、テレワークをすると生産性が上がるという因果関係を表すものではないという大きな限界があります。そういう意味で在宅勤務が生産性にどのように効果を表すのかとうい因果関係を明らかにすることは、研究としても重要な課題です。

そこで、3月中旬にRIETIの役職員を対象に在宅勤務の生産性についてアンケート調査を行いました。3月の初めくらいからRIETIでは新型コロナウィルス感染防止の観点から役職員・研究員に対して在宅勤務を強く奨励しております。

新型コロナウィルスという突然のショックに対してどう反応したかですので、在宅勤務から生産性への因果関係として解釈できます。具体的にはオフィスで仕事するときの生産性を100としたときに在宅勤務ではいくつになりますかと聞きました。もちろん、家の方が生産性が高いと答えた人は100よりも高いと答えています。在宅勤務の生産性が低い、高い理由も聞いてみました。フルタイムの役職員のうち、95%の方に協力をいただきましたので、サンプル数は少ないですが、代表性は高い。ちなみに、理事長、理事にもご協力をいただいております。

これが定量的な分析の結果となっています。赤紫の線が役員、管理職、支援スタッフの生産性の数字です。100というところがオフィスと自宅での生産性に差がないというところで、ほとんどの人は100よりは少ない数字になっていますから、在宅勤務の生産性の方が低い、オフィスで働くようには良い仕事ができないとほとんどの方が答えています。研究員の分布を示したものがグリーンの線になりますが、こちらは100よりも高い数字が先ほどの管理職やスタッフに比べるとやや多いという特徴があります。ただ、どちらも平均値をとると100より低いので、どちらも急に在宅勤務をやらなくてはいけなくなったので従来の生産性が実現できていないということが分かります。 2つ目の特徴は、研究員はグリーンの線で赤い人たちよりも高くて81、研究員以外は55と1%水準で有意な差があります。

もう1つ注目する必要があるのが、同じ職種の中でも個人差が非常にあり分布が大きくばらついている。ではどういう人が高いのか、どういう人が低いのかということが研究者としての関心事となります。

これは定性的なインタビュー・アンケートの結果ですが、大きく分けて4つにまとめられるのではないかという風に思います。

一つは、在宅勤務の時に使うハードウエアとか、遠隔アクセスのためのソフトウエアの操作性が非常に悪いとか、それから、オフィスで使っている機器とキーボードの配列とかいろいろ違ったりするのでスイッチングコストがどうもあるようだということがあります。ただこれは、在宅勤務をしていくことによって学習効果を通じて、特に先ほどの生産性分布の低い方にいた人たちが、もう少し右のほうにくる可能性が高いんではないかと思っています。

それから二つ目の理由が、オフィスでしかできない業務があるということです。これは例えば決裁のハンコをもらわなくてはいけないとかですね、それから、もともと過去の資料を見て資料を作らなくてはいけないのだけど、過去のファイルが電子媒体になっていなくて紙のファイルを見ながら仕事をしないと仕事にならないと、こういう話が結構ありました。

それから、研究員の場合には、統計法で個票データは自分の研究室でしか使ってはいけないという非常に強い制約があります。そういったセキュリティ上の理由を含めた制約がありますので、ここのところは非常に大きな在宅勤務の生産性引き下げ要因になるということになります。ただ、これは一部はルールを変えることによって、今までは自宅でできなかったことをできるようにする余地があるのかなと、おそらくこれは多くの企業が今直面している課題で、実際社内ルールの改正などをやっているだろうと思っています。

三つ目がフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが失われると。それは近くにいる人にぱっと聞けばすぐ分かることがですね、メールでやり取りするとかあるいは最近はZoomとかMeetとかを使ってやるわけですけれども、やはりなかなか勝手が悪いということがあります。それからフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションは研究者の場合はそんなに必要ないと思われるかもしれないですが、決してそうではなくて、研究者というのは他の人と一緒にお昼を食べながら雑談する中でいろんなヒントが得られるわけですね。そういったことを、実際研究員の中でも指摘する方がいらっしゃいました。

それから四つ目、これはかなり重要な要素になりますけれども、自宅の仕事環境の制約、これは結構多くの人が言っていて、特に書斎、自分の部屋があるかないかということで大きく違うようです。家で仕事をするといっても、ちゃぶ台で仕事するとか、それから家族構成でいうと、小さい子がいるのでなかなか落ち着いて家で仕事ができないとおっしゃる方がいます。これは、われわれもよく注意しなければいけないと思うのですけれども、幹部の人はしばしば自分の個室を持っているんです。だけど研究員とか職員の方は必ずしもそうではない、そういう制約があるんだということをよく知って、在宅勤務を誘導していかなくてはいけないと思います。

そういう意味で一つ目とか二つ目の要素はある程度克服できると思うので、徐々に在宅勤務の生産性がオフィスワークの生産性に収斂していく可能性はあるだろうと思います。ただ、三つ目とか四つ目の制約というのは物理的な制約ですので、そういう意味で収斂していったとしても100に平均が達することはおそらくないだろと考えられます。

政策的なインプリケーションですが、在宅勤務に関連する企業、あるいは個人、自分自身が自宅の環境を整えるために投資したりする必要があるわけで、こういったことに助成することは、需要側でコンピュータとかソフトウエアに対してすぐ顕在化する需要なわけです。有効な需要が作れると。もう1つは供給側で、中長期的になりますけれども、在宅勤務の生産性を上げるというようなやり方があるだろうということがあります。

以上ですが、ここで今日お話ししたようなことをRIETIのコラムにも書いていますので、よろしかったら見ていただけたらと思います。以上です。

Q&A

Q:今回の調査は3月の中旬ぐらいで、その後約3週間くらい経っておりますが、何か変化やお気付きの点はありますでしょうか。

A:おそらくこの左側の方にいた人が、少しずつ右側に寄ってきているんじゃないかなと思うんです。そういう意味では先ほどの政策含意の二つ目の学習効果みたいなものが少し増えていくのでないかと思います。このインタビューを行ってから、どこかでフォローアップ調査をやらなければと思っていて、職員の方にはできれば1カ月後か2カ月後にまたご協力いただきたいと思っています。

Q:森川所長は4月から大学のお仕事を始められたわけですが、教育現場、大学や学校などは在宅で生産性が変わってくるとお考えでしょうか。

A:生産性が変わるかどうかというか、今はもう否応なく迫られていて、実は先ほども大学で契約したテレワークのアカウントを、人数に限りがあるので何日までに使いたい人は申請してください、というメールが来てたんです。私はすぐ申請したんですが、そういう意味で、もうみんな否応なく迫られてるということが先生の場合にあり、おそらく学生さん、大学だけではなくて中学校とか高校とか、あるいは小学校でも同じような問題があるわけです。「在宅勤務」といいますけれども、在宅教育というのも同じぐらい重要になりまして、そういう意味ではこの在宅教育をしやすくするようなパソコンを配布するとか、あるいは特に家の勉強する環境が良くない人に、そういったものを何とか克服するようなサポートをするといったことが大事になるのではないかと思います。どうしても在宅というと家の中で勉強することになるんですが、今、図書館は閉まっているから図書館に行ってやるというわけにはいかない、もし家でどうしても勉強ができないような環境の人は、家でなくともいいとか、制約や条件を付ける必要はあると思いますけれども、そういったことを対策に含む必要があるのではないかと思っています。

2020年4月13日掲載

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