第8回

どうなる!? 日本の大学~大学評価をめぐって

原山 優子
ファカルティフェロー

ヨーロッパでは、大学が抱える問題の解決手段、また大学の自律性を効果的に活用する手段として「大学評価」が用いられてきました。日本では2000年から大学評価・学位授与機構により国立大学の評価の試行がスタートし、また2004年に国立大学が独立法人となり、中期目標・中期計画に基づく大学評価が導入されます。RIETIでは2月22日に国連大学において、政策シンポジウム「How to Evaluate a University and What For?  大学評価モデルを求めて:ヨーロッパの試み」を開催します。これに先立ち、RIETI編集部では原山優子ファカルティフェローに大学評価の基本的背景、争点について伺いました。

日本における大学評価の主な歩み

  • 1991年:大学審議会の提言により、研究・教育活動の自己点検・評価が努力義務化された。評価を行う主体は大学自身であり、多くの大学が結果を公表。複数の大学が「大学白書」の発行を開始する。
  • 1996年:大学の任意団体である大学基準協会がこれまで行っていた加盟判定審査のみならず、相互評価(アクレディテーション)も導入。ただし、任意で行う評価であり、公表の義務はなし。
  • 1998年:大学審議会の答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」において、これまでの自己点検・評価のさらなる充実と、客観的な第三者評価の必要があるとされ、実施主体として第三者機関の設置が提言される。
  • 1999年:学位授与機構に大学評価機関(仮称)創設準備室および同準備委員会が設置される。
  • 2000年:学位授与機構を改組した「大学評価・学位授与機構」が発足。大学評価・学位授与機構による大学評価は全国立大学を対象とし、大学教育の質に対して、初めて統一的な第三者評価が行われることになる。

RIETI編集部:
日本の大学評価の現状を教えて下さい。

原山:
具体的な評価を行う機関としては、国立大学を評価する組織である、大学評価・学位授与機構、そして技術者のレベルを認定評価する機関である、日本技術者教育認定機構(JABEE)、民間機関である(財)大学基準協会があげられます。昨年の臨時国会で学校法が一部改正されましたが、私立も含むすべての大学の評価を視野に入れた認定評価制度の創設が決まりました。また、国立大学は独立法人になり、中期目標、中期計画に基づく評価がなされるようになります。このように、多様な大学評価システムが混在し、進化の段階にあるというのが現状です。多種多様な教育を行っている大学を統一的に評価することが望ましいのか、また、大学基準協会や日本技術者教育認定機構などが導入した評価と、大学評価・学位授与機構が行う評価との関係をどうするか、大学の負担をいかに軽減するか等課題は数多くあります。

RIETI編集部:
原山さんが考える現在の検討状況の問題点を教えてください。

原山:
そもそも、何のための評価かということがこれまでの議論から抜け落ちていると思います。評価の目的として、教育・研究活動の強化、管理運営の効率向上、質保証、資源配分の指標、社会的なアカウンタビリティ、そしてランキング付けなどの理由が挙げられると思います。そして誰のための大学評価かというと、大学自身のため、または大学のステークホルダーのためといえます。ここでいうステークホルダーには、政府、資金供給者、卒業生、在学生、職員、そして社会全体が含まれます。評価の対象は教官、職員、学生といった個人、また機関そのもの、研究、教育、社会貢献などの活動、管理運営が考えられます。評価の方法は自己点検、ピアレビュー、評価指標による評価があります。そして誰が主体となって評価するのかというと、専門機関、専門家、同僚、マスコミ、カスタマーである学生、卒業生を雇用する企業などが考えられます。大学評価とは、これらの要素の組み合わせであり、とても複雑なものです。今回RIETIでシンポジウムを開催する目的は、こういったさまざまな問題を投げかけること。また、パネルディスカッションでは「大学評価のメカニズムをどう作るか」といったところに焦点をあてて具体的に議論する予定です。
また、国立大学の受け身な姿勢が気になります。文部科学省が決めた枠組みに、いかに効率よく対応していくかという “待ち”の体制になっている。ヨーロッパの場合は大学のニーズに応える形で、評価が行われている。日本ももっと大学側からの自発的なアクションによって評価制度を導入すべきだと思います。

RIETI編集部:
原山さんの考えるあるべき大学評価の姿とはどういうものでしょうか?

原山:
政府による評価も1つのやり方ですが、大学自らの手による評価も選択肢として一考に価すると思います。「大学のための大学評価」が基本理念とされるべきで、またなぜ政府の枠組みが必要なのかについても、議論されるべきです。私立大学協会は独自に評価組織について議論しているということですが、こういうアプローチは大切だと思います。文部科学省の管理下、「大学システムの多様性」を奨励する一方で、すべての大学を同じ尺度で評価することに矛盾を感じます。また、大学評価を実際に行う際、大学には膨大な量の提出書類を作成することが求められ、多大なコストが生じるわけです。評価を行った結果、大学の活動・運営を向上する具体的な示唆が得られるのであれば大学側もそれなりのメリットを感じるでしょうが、そうでない場合、費用便益という視点から大学が積極的に大学評価に参加するという動機付けが見えません。「決められたルールに対応していく」という受身的な評価のとらえ方から一歩踏み出すために、今回のシンポジウムでは、他の見方、やり方もあるということを紹介します。「大学が求める評価システムとは?」という議論が展開することを期待します。

取材・文/RIETIウェブ編集部 熊谷・谷本 2003年2月6日

2003年2月6日掲載