ノンテクニカルサマリー

生成AI導入初期における中小企業の利用行動:クラウド会計データに基づく業種別分析

執筆者 小西 葉子(上席研究員(特任))/久保 隆史(マネーフォワード総合研究所)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

ChatGPTに代表される独立型生成AIは、2022年後半以降、世界的に急速に普及し、文章作成や企画立案など幅広い業務に活用されている。企業における生成AI利用は、この独立型サービスの登場を契機として本格化した。

一方で、生成AIは今後、既存ソフトウェアに組み込まれる形で提供される可能性が高く、独立型サービスとしての利用履歴を直接観測できる期間は限られる。導入初期の実態を把握することは、政策設計や効果検証の基礎資料として重要である。しかし既存研究は導入「後」の生産性効果に焦点を当てるものが多く、企業が「いつ」「どのように」利用を開始したのかという初期行動は十分に解明されていない。

本研究は、約87,000社の中小企業によるクラウド会計データ(2022年1月~2025年6月)を用い、独立型生成AIへの実際の課金行動に基づき、業種別の導入パターンを分析した。本データは生成AIに加え、基幹業務や開発・デザイン系サービスなど他のデジタル技術の利用状況も同時に観測できる点に特徴がある。

① 利用水準は業種で大きく異なる
図1は業種別の生成AI利用率の推移を示す。2025年6月時点ではICT業や教育業で高水準に達する一方、建設業や運輸業では低水準にとどまる。業種間には安定した階層構造が形成されており、順位関係は期間を通じて大きく変化していない。生成AIの普及は自然に収束しているのではなく、業種構造と関連している可能性がある。

図1:業種別生成AI導入率の推移:2022年1月〜2025年6月(約76,000社)
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図1:業種別生成AI導入率の推移:2022年1月〜2025年6月(約76,000社)
注:分析対象は業種が分類不明なものを除いている。
出所:マネーフォワード クラウド会計のデータを使用して著者ら作成

② 導入開始は業種を超えて同期的
初回導入時期を見ると、ほぼ全業種で2023年初頭に利用開始が集中している。これは大規模言語モデル公開時期と重なり、外生的技術ショックへの同時反応が確認された。

③ 差異の背景にはデジタル技術環境
生成AI利用と他のデジタル技術利用状況を同時に分析すると、

  • 開発・デザイン系サービス利用が多い業種ほど生成AI利用率は高い
  • 基幹業務中心の業種では独立型生成AI利用率は低い傾向

が確認された。業種固定効果を考慮しても、既存のデジタル技術採用水準と生成AI利用水準の間に有意な関連が観察される。生成AI利用は企業規模のみでなく、業務タスク構造や既存デジタル環境と関係している。

④ 政策的含意
第一に、一律の導入補助では十分でない。生成AI普及は技術アクセスのみで決まらず、業種固有の業務構造と関連する。
第二に、業種別のデジタル環境を踏まえた支援設計が重要である。補助金に加え、活用事例の共有や試行機会の提供など、タスク構造に応じた政策設計が求められる。