ノンテクニカルサマリー

人々は何をもって「復興」と感じるのか ― 公的統計と意識調査による能登半島地震の分析

執筆者 小西 葉子(上席研究員(特任))/齋藤 敬(コンサルティングフェロー)/伊藝 直哉(株式会社インテージリサーチ)/伊藤 千恵美(株式会社インテージリサーチ)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

復興はなぜ「見えにくい」のか

能登半島地震から2年以上が経過した現在も、「復興の実態が見えにくい」という声が多く聞かれる。本研究は、その理由をデータから考える。公的統計と全国約2万人の意識調査を組み合わせ、地域経済の構造と、人々が復興をどのように捉えているのかを整理した。

能登地方の地域経済は地元企業中心で構成されている

図1は、「令和3年経済センサス-活動調査」を用いて、石川県内の市区町村別に本社が県外にある事業所の割合(県外本社比率)を示したものである。奥能登地域に位置する珠洲市5.3%、輪島市5.5%と、金沢市(17.8%)などの加賀地方とは大きな差がある。これは、能登地方の経済が地元企業中心で構成されていることを示している。

全国チェーンの店舗が多い地域では、売上や営業活動が企業ネットワークや民間データを通じて比較的把握されやすい。一方、能登地方のように地元資本の事業者が多い地域では、小規模事業者の活動が多く、日常の経済活動が一部の統計や民間データには十分に現れにくい。そのため、震災の前後にかかわらず、このような地域では外部から利用可能なデータだけでは経済の動きを把握しにくい。災害後には、この構造が復興の進展を見えにくくする一因となりうる。

図1 石川県能登地方・加賀地方に所在する事業所の本社所在地県外比率
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図1 石川県能登地方・加賀地方に所在する事業所の本社所在地県外比率
出所:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」の調査票情報を用いて特別集計し著者作成。

復興を具体的に想像できない層の存在

全国約2万人を対象とした意識調査では、復興の捉え方にも特徴が見られた。
「復興が20%進んだとき、何が復旧していてほしいか」という問いに対し、「どれも当てはまらない」と回答する人が一定数存在した。

回帰分析の結果、この回答と強く関係していたのは、災害への備えがないこと、地震リスクを低く見積もっていること、復興政策への関心が低いことといった、災害や地域との接点の少なさであった。
さらに、年齢や性別などの属性を考慮しても、この関係は確認された。

この結果は、復興が見えにくい背景には、地域経済の構造だけでなく、人々の復興に対する認識の違いも関係している可能性を示している。

政策への示唆

第一に、復興政策の効果を評価するためには、災害後の指標だけでなく、災害前の地域構造を把握する統計基盤が不可欠である。能登地方で観測された生産や商業活動の落ち込み、復興認識の差異は、災害時に新たに生じた問題というよりも、平時からの産業構造や資本構造と連続して理解されるべきものである。

第二に、復興の進捗は単一の指標で捉えられるものではなく、生産、商業、景況、意識といった異なる統計を組み合わせて把握する必要がある。将来の自然災害に備えるうえで重要なのは、復興を事後的に測ろうとするのではなく、復興が見えるような統計とデータを平時から蓄積しておくことである。

本稿は、能登地方の復興を記録する試みであると同時に、日本の公的統計が何を捉えてきて、何を捉えきれてこなかったのかを問い直すものである。復興を測るための前提条件がどこまで整っていたのかという点に目を向けることが、次の災害に備えるための重要な出発点となる。