| 執筆者 | 泉 佑太朗(政策研究大学院大学)/中田 啓之(ファカルティフェロー)/澤田 康幸(東京大学)/関口 訓央(コンサルティングフェロー) |
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| 研究プロジェクト | 中小企業の災害に対するレジリエンスの実証研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「中小企業の災害に対するレジリエンスの実証研究」プロジェクト
東日本大震災は、近年、最も重大な被害をわが国にもたらした災害であることは間違いないであろう。従来の研究では、災害によるマイナスの影響が恒久的にあるという議論に対して、逆に、経済全体で評価すると、長期的にはプラスの影響があるという議論がある。東日本大震災については、サプライチェーンへの影響を含めた実証研究が多くなされてきたが、10年以上の長期の影響についての分析は、最近になってようやく可能となった。そこで、本稿は、2025年初頭に実施された経済産業研究所の質問票調査である、2024年度「中小企業の災害への対処策に関する調査」により収集された、3,500社を超える、2010年以降の被災経験の有無(自己申告)を含んだデータと東京商工リサーチの財務情報等のデータを組み合わせることで、地震と津波の被災が長期にわたって中小企業にどのように影響を与えたか、分析する。
図1は、東日本大震災での被災経験の自己申告のあった企業の申告なし企業との比較を、売上高計(左上)、従業員数(右上)、総資産(左下)、総固定資産(右下)について示したものである。図で「0」は、2011年をしめしており、東日本大震災以前(「0」時点より左)には被災経験の有無での有意な差がいずれの経営指標でも見られないのに対して、東日本大震災以降では、徐々に下振れ幅が広がっている様子が読み取れる。これは、被災直後に大きな影響があり、その後、回復に向かうという点を示してきた既存研究ではあまり把握されてこなかった傾向である。
図2は、建設業とそれ以外を区別し、図1と同様の分析をしたものである。特記すべき点は、建設業(茶色の三角形と線でプロット)については、震災後、被災経験がある企業にプラスの影響があったのに対して、非建設業(黒い丸と線でプロット)については、マイナスの影響があったことである。これは、被災地域における復興工事による需要増大により、建設業についてはプラスの影響があったものの、建設業以外の企業への波及効果が限定的であったことを示唆している。
図1と図2は、被災企業の定義が被災経験の有無を直接、各企業から質問票により得た回答を基にしているが、既存研究では、しばしば地理情報から被災の有無を定義することがある。そこで、本稿では、(i)GIS情報を基に被災の有無を定義と(ii)激甚災害指定された市町村に所在していた企業か否かで被災の有無を定義、という2種類の地理情報による被災の定義をした分析を行った。地理情報による被災企業の定義による分析では、質問票調査で回答のあった企業だけではなく、東京商工リサーチのデータベース全体を利用できるため、より多くの企業を分析対象として確保できることが利点である。その結果、いずれの定義でも、いずれの経営指標に被災経験がマイナスの影響があったとは言えない結果となった。
表1は、質問票調査で回答のあった企業のうち、自己申告による被災の定義と2種類の地理情報による被災の定義の乖離の状況をまとめている。自己申告で被災のあった企業19社のうち、4社のみGISでの定義で含まれ、激甚災害指定による定義でも8社にとどまっている。GISによる定義での被災企業9社のうち、自己申告があったのは4社、激甚災害指定による定義では8社となっており、また、激甚災害指定による定義での被災企業12社のうち、自己申告があったのは8社、GISによる定義でも8社となっている。
本分析の結果は、復興支援政策等の策定において重要な示唆を与えている。すなわち、支援対象となる企業の選定に当たり、多くの先行研究で依拠されてきた、客観的であるものの機械的で粒度が低い単純な地理情報による定義では不十分であり、個々の詳細な被災状況を丁寧に把握することの必要性を示している。とりわけ、わが国が培ってきた、詳細な家屋調査に基づく公的罹災認定の仕組みを、企業・事業所の被害状況把握や復興支援へと拡張・応用することは、有効なアプローチとなり得るであろう。