ノンテクニカルサマリー

日本の中小企業の災害復興における認識の乖離と自発的戦略

執筆者 泉 佑太朗(政策研究大学院大学)/中田 啓之(ファカルティフェロー)/澤田 康幸(東京大学)/関口 訓央(コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト 中小企業の災害に対するレジリエンスの実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「中小企業の災害に対するレジリエンスの実証研究」プロジェクト

わが国は、近年、直接的には地震や洪水等の様々な自然災害・鳥インフルエンザや新型コロナ感染症等の感染症、さらに間接的には紛争や戦争等、企業活動の休止を引き起こすような様々な災害に見舞われている。こうした状況において、中小企業を対象としたBCP認定制度(事業継続力強化計画認定制度)が中小企業庁により2019年に開始され、認定係数は2025年12月末時点で9万件を超えている。しかしながら、保険やBCP等、中小企業が事前に講じられる災害対策の有効性についてのシステマティックな実証的検証は、データの制約の問題もあり、いままでほとんど行われてこなかった。そこで、本研究では、保険やBCP等の有効性を中小企業がどのように評価しているのか、また被災後の実際の業績にどのような効果があるのか、独自調査を通じてデータを収集し実証的に検証した。具体的には、2025年初頭に実施された経済産業研究所の質問票調査である、2024年度「中小企業の災害への対処策に関する調査」により収集された、3,500社を超える主観的評価を含んだデータと東京商工リサーチの財務情報等のデータを組み合わせ、研究を実施した。

図1は、財物保険等、各対処策の災害種別の主観的な有効性評価の分布を表しており、線が右(あるいは下)に位置しているほど評価が高い。この図により、地震については、保険(財物、事業休止)の評価が低く、融資(民間銀行、公的)、公的補助金の評価が高いのに対して、台風等の風災については、逆に財物保険の評価が高く、融資(民間銀行、公的)や公的補助金の評価が低い。洪水等の水災は、両者の中間のパターンが見られる。これは、災害により、予測難易度が異なることと保険と融資ならびに公的補助金の契約形態が異なることを反映しているように考えられる。つまり、地震が最も予測が困難であり、次いで水災、最後に風災と考えられることに加え、財物保険の代表的な形態である火災保険が風災については標準的な契約で付保しているのに対して、地震や水災については、追加的な特約が必要であるため、特に地震については付保していない企業が多いことを反映していると考えられる。保険については被災前の契約が必須なのに対して、融資や公的補助金は、被災後に契約や申請ができることから、保険、特に財物保険と対象的なパターンになっていることを示唆している。

図1:各対処策の災害種別有効性評価
図 1:各対処策の災害種別有効性評価

図2は、被災前にBCP策定の操業停止への影響を評価している。BCP策定なし群では平均で3割強が操業停止に追い込まれたのに対して、策定済の場合、平均で2割弱と、1割以上、操業停止に追い込まれた確率が低くなっており、BCP策定が操業停止回避に有効に機能していると評価できる。図3は、地震保険(特約)と洪水保険(特約)について、同様の分析をしたものであるが、いずれも統計的に有意ではないものの、地震保険が操業停止回避に有効に機能している傾向が見られるのに対し、洪水保険は逆に操業停止が多くなる傾向にある。これは、洪水保険については、よりリスクの高い企業・事業所ほど保険に加入するという逆選抜が起きている可能性を示唆している。

図2:BCP策定の有無による操業停止の頻度の違い
図2:BCP策定の有無による操業停止の頻度の違い
図3:地震保険と洪水保険と操業停止頻度
図3:地震保険と洪水保険と操業停止頻度

図4は、被災後に事業戦略の見直しを行ったことによる売上高計の推移への影響を分析したものである。左上のパネルは、被災後の事業戦略の有無で分けた群による違い(点線が見直した群)が、被災前にはなかったことを示している。これに対して、被災3年後以降、明確に事業戦略を見直した群の分布が見直していない群の分布の右(あるいは下)に位置しており、全体的に売上高計にプラスの効果があったことを示している。BCP策定が操業停止回避によい影響を与えていたことと併せて考えると、経営者がより積極的に戦略的行動を取ることの重要性が浮かび上がってくる。

図4:事業戦略変更と被災後の売上高推移
図4:事業戦略変更と被災後の売上高推移

本分析の結果は、災害の特性に応じた柔軟な企業支援策の展開が有効であることを示すとともに、企業のモラルハザードを回避し、経営者の自主性や積極性を阻害せず、自助努力を高めるような政策デザインの構築が重要であることを強く示唆している。