| 執筆者 | Willem THORBECKE(上席研究員) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
マクロ経済と少子高齢化プログラム(第六期:2024〜2028年度)
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スイス経済は日本経済と多くの特徴を共有する。両国の生徒はいずれも数学に優れている。OECDが2025年に実施した生徒の学習到達度調査(PISA)では、数学的リテラシーにおいて91カ国中スイスは9位、日本は5位であった。両国の経済はともに研究開発への投資に積極的である。また、両国は高度な製品の輸出国である。経済複雑性アトラス(The Atlas of Economic Complexity)(注1)によれば、2001年以降のスイスの輸出バスケットの高度化レベルは輸出国146カ国中3位、2001年以降の日本の輸出バスケットは世界1位にランクされている。
資産の安全な避難場所としてのスイスへの資本流入と経常収支の黒字は、スイスフランの継続的な上昇をもたらしている。図1に示されているように、2001年1月から2026年5月までの間に、スイスフランはユーロに対し51%、米ドルに対し73%増価した。
多くの研究者が、スイスフランの増価がスイスの輸出量に及ぼす影響は限定的だと報告している。IMF(2013)に述べられているように、その理由は、スイスの「...輸出産業はきわめて特殊な品目の生産を中心に構築されている可能性があり、そうした品目はそのブランド力や特殊特性がとりわけ高く評価されていることから、価格競争が限定的である」(IMF, 2013, p.18)ためである。
スイスの貿易黒字を牽引してきたのは、医薬品セクターである(Sauré, 2015)。Sauréは、為替レートが医薬品の貿易に影響を及ぼすことはないと明らかにしている。Auer and Sauré (2011)は、為替レートが医薬品や化学品などのスイスのセクターに影響を及ぼさない一つの理由として、これらの製品において生産者が直面する競争は限定的だからだと指摘している。
とはいえ、医薬品産業や化学産業での強力な競争相手として中国の台頭が著しい。Barwick et al. (2026)は、中国が2020年までに世界の臨床試験件数において米国とEUを上回ったことを実証している。さらに、中国の研究者が現在、年間5万本を超える生物医学論文を発表していることも明らかにしている。中国はまた、低価格で製品を製造する能力も備えている。中国企業は医薬品や化学品の生産の数多くの分野で技術フロンティアに到達していることから、これらの産業においては中国企業がスイス企業にとって競争上の脅威となる可能性があるだろう。
本稿では、現在におけるスイスの輸出の為替レートに対する感応度について検証した。時系列データおよびパネルデータによるエビデンスはともに、スイスフランの増価は、スイスの総輸出と化学品・医薬品輸出の両方において大幅な減少をもたらすことを示している。スイスフランが10%増価すると、総輸出と医薬品輸出はいずれも10%近く減少する。過去のデータを用いた研究結果と異なり、こうした本研究における結果は、スイスフランの増価はスイスの最も高度なセクターにおいてさえ価格競争力の低下をもたらすことを示唆している。
また、この研究結果は、スイスフランの増価がスイスの大半のセクターにおいて株価の下落を引き起こすことも示している。これには、化学セクターと医薬品セクターも含まれる。Thorbecke and Kato (2018)では、2001年から2016年の期間においては医薬品セクターは為替レートの影響を受けなかったことが明らかにされていた。
2026年現在、スイス企業は、スイスフラン高の危険性について声を上げている。医薬品、時計、贅沢品、機械、電気工学、金属、化学産業などのスイスの業界は、スイスフラン高は競争力の低下をもたらすと不満を訴えている(Ruehl and Smith, 2026)。スイスのチョコレートメーカーのCEOであるヨハネス・レダラッハ(Johannes Läderach)は、スイスフラン高はスイス経済にとって最大の脅威だと述べている (Bassin, 2026)。
スイスの民間セクターは、柔軟にスイスフラン高対策を講じている。製薬・バイオテクノロジー企業であるノバルティスは、従業員の満足度を維持する(例えば、託児所を提供する)ことで生産性の向上を図っている。電力・重電・重工業企業であるABBは、積極的に従業員からの批判や提案を促すことで継続的な改善によるコスト削減を目指している。精密工具メーカーのPBスイスツールズは、スイスフラン高対策として週40時間労働ではなく週43時間労働とすることに労使間で合意した。為替レートの変動が激しい中でスイス企業がいかにしてそのレジリエンスを維持しているのか、諸外国の企業もそうした対応策から学ぶべきである。
- 脚注
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- ^ The website for the Atlas of Economic Complexity is https://atlas.hks.harvard.edu/ .
- 参考文献
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- Auer, R., and Sauré , P., 2011. Export Basket and the Effects of Exchange Rates on Exports – Why Switzerland is Special. Federal Reserve Bank of Dallas Globalization and Monetary Policy Institute Working Paper No. 77.
- Barwick, J., Xia, H., and Xia, T. 2026. From Free Rider to Innovator: The Rise of China's Drug Development. NBER Working Paper 34977.
- Bassin, Aline. 2026. Johannes Läderach: La force du Franc Reste la Plus Grande Menace Pour L’économie Suisse. Le Temps. 3 April 2026.
- IMF. 2013. Switzerland Selected Issues Paper. IMF Country Report, No 13-129. Available at: http://www.imf.org/external/pubs/ft/scr/2013/cr13129.pdf .
- Ruehl, Mercedes and Smith, Ian. 2026. Franc’s Relentless Rise Alarms Swiss Companies. Financial Times, 15 February.
- Sauré, P. 2015. The Resilient Trade Surplus, the Pharmaceutical Sector, and Exchange Rate Assessments in Switzerland. Peterson Institute Working Paper Series WP 15-11.
- Thorbecke, W., and Kato, A. Exchange Rates and the Swiss Economy. Journal of Policy Modeling, 40, 1182-1199.