ノンテクニカルサマリー

生活保護給付の削減が稼得に与える影響:日本の制度改革の分析

執筆者 松本 広大(研究員(政策エコノミスト))
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第六期:2024〜2028年度)
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

問題の背景

生活保護は、生活に困窮する人に最低限度の生活を保障する制度である。他方で、給付があると就労意欲が弱まるのではないかという議論もある。働いて収入が増えても、その分だけ給付が減れば、手取りの増加が小さくなるからである。こうした状況は「貧困の罠」と呼ばれる。

研究の方法

本研究は、2013~2015年の生活扶助基準引下げが、受給者の就労収入に与えた影響を検証したものである。分析には厚生労働省「被保護者調査」の個票データを独自に集計し、地域ごとの減額幅の違いを利用して比較を行った。主な対象は、比較的就労可能性が高いと考えられる「その他の世帯」の41~59歳単身男性である。

主な結果

分析の結果、生活扶助基準が約2%、月額でおよそ1,800円引き下げられた地域では、41~59歳の単身男性のうち、それまで就労していなかった受給者を中心に、2015~2017年にかけて就労収入の増加がみられた。増加額は月額約4,000円であり、その幅は小さい。一方、すでに就労していた受給者については、給付削減によって就労収入が明確に増加したとはいえなかった。つまり、確認された効果は、就労者がさらに多く働いた結果ではなく、非就労者の一部が新たに就労を始めたことによるものであった。背景には、働いても給付が減ることで手取りが増えにくい制度設計があると考えられる。そのため、追加的に働く強い動機は生じにくい可能性がある。

効果の限界

一方で、単身女性、母子世帯、若年層については、明確な効果は確認されなかった。さらに、生活保護からの退出が増加したわけでもなかった。つまり、給付を削減しても、多くの受給者が就労を大きく増やしたり、自立に至ったりしたわけではない。

政策的な示唆

これらの結果は、生活保護の給付を減らすだけでは受給者の就労を大きく増やすことは難しいことを示している。受給者が継続的に働きやすくするには、働いて得た収入が手元に残りやすい仕組みが重要である。また、受給者の状況は年齢、性別、世帯構成、過去の就労状況によって異なるため、それぞれの実情に応じた支援が必要である。

図 「その他の世帯」の41~59歳の単身男性における生活扶助削減が就労収入額に及ぼす影響(2級地1と2級地2の比較)
図 「その他の世帯」の41~59歳の単身男性における生活扶助削減が就労収入額に及ぼす影響(2級地1と2級地2の比較)(i) 2013年時点で就労収入額がゼロであった場合
図 「その他の世帯」の41~59歳の単身男性における生活扶助削減が就労収入額に及ぼす影響(2級地1と2級地2の比較)(ii) 2013年時点で就労収入額がゼロより大きかった場合
注:縦軸は就労収入額(万円)を示す。プロットされた値は2013年を基準としたものであり、エラーバーは95%信頼区間を示す。