ノンテクニカルサマリー

日本銀行の政策正常化が金融政策と株価の関係に与える影響

執筆者 Willem THORBECKE(上席研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第六期:2024〜2028年度)
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

2013年、日本銀行(日銀)は量的・質的金融緩和(QQE)を導入し、2%のインフレ目標を設定した。その後の10年間、マネタリーベースは4倍に増加した。更に日銀は2016年にイールドカーブ・コントロール(YCC)を導入した。YCCの内容は、無担保コール翌日物金利をマイナス0.1%に固定し、10年物日本国債(国債)の変動許容幅を0%±25ベーシスポイントに設定するというものであった。

日銀はその後、金融政策の正常化に舵を切った。植田総裁は、賃金と物価の好循環が実現した場合には、日銀が超低金利から脱却し、金融政策を正常化する方針を示した。このような循環においては、労働市場が逼迫すると名目賃金が上昇し、個人消費が増加する。これにより物価が押し上げられ、さらなる賃上げを引き起こす。日銀は物価上昇の流れが改善したと判断し、2024年7月に無担保コール翌日物金利の目標を0.25%に引き上げ、2025年1月には0.50%、2025年12月に0.75%にそれぞれ引き上げた。2021年8月にゼロであった10年物国債の金利が2026年2月に2%超にまで上昇することを許容した。

図1に、2013年1月から2026年2月までの10年物国債金利の推移を示す。2013年から2015年までの平均金利は0.52%で、2016年から2020年にかけてはしばしばマイナスとなった。その後2021年8月に上昇し始め、2026年2月には2.11%に達した。

金利がプラスである国では、中央銀行が金利を引き上げると、多くの場合、株価が下落する。例えば、Bernanke and Kuttner(2005)は、連邦準備制度理事会のフェデラルファンド金利目標が突然25ベーシスポイント引き上げられた場合、全体の株式リターンは1%減少すると報告している。彼らは、フェデラルファンド金利の変動によって多くの個別業種が影響を受けることも発見した。彼らが述べているとおり、金利が株価へ及ぼす影響は、金融政策の主要な波及経路である。

本稿では、Krippner(2013)の潜在短期金利と日次データを用いて、日本の金融政策が株式リターンにどのような影響を与えるかを検証する。金利は時としてゼロやマイナスであったことから、Krippner(2013)の潜在金利は経時的変動がより大きい代替測定方法として利用できる。多くの著者(福田(2025)、井上・沖本(2022)、吉田・Zhai(2025)など)が、Krippnerの金利は金融政策を測定する上で有用な指標であることを見出している。

本稿では3つの期間を分析する。一つ目は2013年から2017年までで、アベノミクスとQQEはこの期間中に導入された。二つ目は、2017年から2021年までで、新型コロナウイルス感染症の世界的流行はこの期間中に発生している。三つ目は、10年国債金利がプラスに転じた2021年8月以降の時期とする。分析の結果、金融政策が株式リターンを減少させたのは金利がプラスであった2021年8月以降の期間中のことであり、それ以前には株式リターンを減少させなかったことから、金利がプラスである国々と同様に、金融政策は2021年8月以降、株式リターンに影響を与えたと言える。これらの結果は、プラス金利の環境下では、金利の株価への影響が、日本経済全体への金融政策ショックの伝達を助長することを示している。

図1. 10年物日本国債の金利
図1. 10年物日本国債の金利
出典:セントルイス連邦準備銀行FREDデータベース
参考文献
  • Bernanke, B. and Kuttner, K. 2005. What Explains the Stock Market's Reaction to Federal Reserve Policy? Journal of Finance, 60, 1221-1257.
  • Fukuda, S. 2025. Short-run and Long-run Consequences of Unconventional Monetary Policy in Japan. Journal of the Japanese and International Economies 77, Article Number 101375.
  • Inoue, T., and Okimoto, T. 2022. International Spillover Effects of Unconventional Monetary Policies of Major Central Banks. International Review of Financial Analysis 79, Article Number 101968.
  • Krippner, L. 2013. Measuring the Stance of Monetary Policy in Zero Lower Bound Environments. Economics Letters, 118, 135-138.
  • Ueda, K. 2025. Japan's Labor Market under Demographic Decline: Evolving Dynamics and Macroeconomic Implications. Remarks at the Jackson Hole Economic Policy Symposium, 23 August. Available at: https://www.boj.or.jp/en/about/press/koen_2025/ko250824a.htm.
  • Yoshida, Y., and Zhai, W. 2025. Can Exchange Rate Pass-throughs Be Perverse? A Robust Multiple-prior Bayesian SVAR Approach. Journal of International Money and Finance 154, Article Number 103312.