ノンテクニカルサマリー

中国とサービス貿易やオフショアリングを行う企業の生産性優位:日本企業の調査によるエビデンス

執筆者 冨浦 英一(所長・CRO)/桑波田 浩之(長崎大学)
研究プロジェクト 変化するグローバリゼーションと中国への日本企業の対応に関する実証分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「変化するグローバリゼーションと中国への日本企業の対応に関する実証分析」プロジェクト

グローバル化が進展し、財の貿易だけでなく、サービス貿易やオフショアリングなど多様な形態の国際分業が広がってきている。しかも、リーマンショック以降は財の貿易に停滞の傾向が見られるのに対し、これらの新しい分業形態は増勢を続けているようであるが政府統計による捕捉は十分ではない。中間財貿易のデータを活用した分析は進んだが、サービス取引については、税関で把握されている財の貿易に比べ情報が不足している。他方で、中国の台頭等により、中国との取引関係に注目が高まっている。そこで、サービス貿易やオフショアリングについて、中国との関係に焦点を当て、日本企業を対象に独自のアンケート調査を実施した。その結果については、既に概要をとりまとめた(冨浦・伊藤・桑波田25-J-009)。今回は、この調査結果を経済産業省企業活動基本調査(「企活」と以下では略記)の企業ミクロデータとリンクさせることにより、こうした取引を中国と行っている企業の特徴を統計的にあぶり出すことを目指した。

調査については、企活対象企業から2万社を業種を基準として抽出しアンケート質問票を配布し、およそ2割の企業から回答が得られた。企活対象企業であることから、中堅・大企業に限られるが、国際取引に関する調査であるので、中小零細企業が含まれていないことの問題は限定的と見ることができる。業種については、製造業、卸売業、小売業、及び主要なサービス業をカバーした。その回答を企活ミクロデータとリンクさせることにより、回答企業の基本的特性に関するデータセットを構築した。調査は2024年に実施され、2023年の実績を主に問うものであった。調査時点で最新の企活データをリンクさせたため、2022年時点での企業の特性が2023年時点での取引に与えた影響を探ったことになる。

生産性(労働生産性)を比べると、サービスを中国に輸出している企業、サービスを中国から輸入している企業、製造業務を中国に委託・外注(オフショアリング)している企業、非製造業務を中国にオフショアリングしている企業とも、していない企業に比べ生産性が高い傾向が見出された(図)。財の輸出については、前世紀末以来多くの国々で様々なデータを用いて、輸出企業の生産性プレミアムが確認され定型化した事実として既に確立しているが、サービス貿易やオフショアリングについて中国を相手とする場合のプレミアムの発見は一定の意義を有すると考えられる。この他、研究開発集約度(R&D―売上高比率)が高いことも併せ確認された。これに対し、情報通信費比率や資本労働比率については有意な差がほとんど見られなかった。ただ、多くの場合において、当該取引を行う企業に生産性プレミアムが観測されるのであって、中国と取引している企業だけが生産性に有意な差があるわけではないことも推定から明らかになった。

今後については、貿易全般におけるサービス貿易等の比重の増大をふまえると、こうした調査の充実が求められる。特に、今回の調査は回答率向上のために、取引を行っているか否かだけを問い、金額等の記入を求めなかったため、マグニチュードの議論ができなかった。また、異時点間の比較のためのパネルデータ化に必要な追跡調査も重要な残された課題である。こうした情報収集の積み重ねにより、中国との国際分業の実態を財の貿易に限定せず多面的にとらえることが可能となっていくと期待される。

(図)生産性プレミアム(%)
(図)生産性プレミアム(%)
(注)当該取引を行っている企業が行っていない企業に比べ労働生産性が何%高いかを示したもの。