| 執筆者 | 笹原 彰(慶應義塾大学)/イ・ジョングァン(延世大学校) |
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| 研究プロジェクト | グローバル化の地域経済への影響 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「グローバル化の地域経済への影響」プロジェクト
本稿では、外国人労働者(移民労働者)の流入が日本の労働市場に与えた影響を検証した。特に、若年者の労働市場への最初の入り口である高校卒業時の就職率や大学進学率への影響を分析した。外国人労働者の流入が外生的ショックであると見なせるような状況として、1989年に改正され1990年に施行された出入国管理及び難民認定法(入管法)に焦点を当てた。この入管法の改正によって、日系外国人3世に「定住者」の在留資格を付与することが可能となり、この在留資格を持つ労働者は単純労働・高技能労働などの括りに関係なくあらゆる職種に就けるようになった。これによって、ブラジル、ペルーなどの南米諸国から日系外国人が多く流入した(図1を参照のこと)。
この結果もたらされた「外国人労働者数の変化÷初期時点における労働力人口」の都道府県間の変動を利用して、移民流入が様々な指標に与える影響を分析した。外国人労働者は移住先の都道府県を選択する際に労働需要などの経済状況に基づき意思決定をする可能性が高い。そのような「移住先の都道府県の経済状況→移住行動」の逆の因果に対処するために、シフトシェア型の操作変数を用いて因果関係の識別を試みる。識別のアイディアは、初期時点における各国籍の移民の地理的分布(シェア)と、日本全国における各国籍の移民のマクロ的変化(シフト)を掛け合わせて外国人労働者数の外生変動を取り出すというものである。
分析の結果、1990年の改正入管法の施行で「外国人労働者数の変化の労働力人口比」の1%のポイント上昇に対して、その年に卒業する高校生総数のうち同じ都道府県内で就職する高校生の割合が1994年までに2%ポイントほど低下したこと、専門学校に進学する高校生の割合は2000年頃までに5%ポイントほど減少したが、大学に進学する高校生の割合が2000年頃までに3%ポイントほど上昇したことが示された。移民流入が国内住民の学歴を高める効果は、アメリカを対象にした研究でも示されている(Hunt, 2017; McHenry, 2015)。日本を対象にした研究には中村他(2009)があり、ミクロデータを用いてやはり同様の結果を示している。本論文では都道府県レベルの集約データを用いた上で因果関係の識別の面で異なる戦略を用い、さらに2000年以降までの長期の動学的な応答を検証しているという点で中村他(2009)の分析を補完している。我々の結果は、移民の流入に反応して国内の潜在的労働者が労働市場への参入を回避して大学への進学を選択したことを示唆しており、移民の流入が人的資本形成を促した可能性があることを示している。
- 参考文献
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- Hunt, Jennifer (2017) “The impact of immigration on the educational attainment of natives.” Journal of Human Resources, 52(4): 1060-1118.
- McHenry, Peter (2015) “Immigration and the human capital of natives.” Journal of Human Resources, 50(1): 34-71.
- 中村二朗・内藤久裕・神林龍・川口大司・町北朋洋 (2009) 『日本の外国人労働力:経済学からの検証』日本経済新聞出版.