| 執筆者 | 風神 佐知子(慶應義塾大学) |
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| 研究プロジェクト | グローバル化の地域経済への影響 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「グローバル化の地域経済への影響」プロジェクト
背景:サービス業のグローバル化と労働市場
サービス業のグローバル化は以前から注目されているものの、国内労働市場に与える影響の実証分析は少ない。サービス業では、現地法人を通じて海外でサービスを提供するのみならず、ライセンス契約やアウトソーシングなど多様な形態があり、統計で実態を把握するのは製造業より難しい。しかしながら、サービス業のグローバル化はますます進展し、同時に、日本を含め先進国ではサービス業で働く人の割合は8割程度と多くの人々の生活に関わる。さらに、グローバル化は都市化を促す可能性も考えられ、データ補足などに制約があったとしても実証する意義は深い。
考えられる影響として、国内労働力が海外労働力と代替される(置き換えられる)ならば、サービス業のグローバル化により国内雇用量は減少し、反対に補完関係である(つまり、海外での経済活動が活発になるほど、国内労働力も必要になる)ならば、国内雇用量は増加する。これは、サービス業の種類や業務内容によって異なると予測される。また、製造業では立地の優位性などが働くのに対し、サービス業では、例えば、情報通信産業のように、立地に依存せずにリモートでサービスを提供しうる一方で、知識のスピルオーバーや高品質なインフラを求めて都市部に集積することも考えられる。さらに、人や企業が集積すると、消費地に依存する宿泊・飲食サービス業などを惹きつける。これらの影響は労働者の属性や地域によって異質であると考えられる。以上を踏まえ、実際のデータで分析した。
分析方法:海外現地法人を通じた投資が雇用量と賃金に与える影響
国内企業が現地法人を通じて設備投資額を増加させることをグローバル化の進展と捉え、雇用量と賃金に与える影響を分析した。国内の各地域への影響をみるため、海外事業活動基本調査および企業活動基本調査を、事業所・企業統計調査および経済センサスに接続し、投資額をそれぞれの企業の各地域の事業所の従業員数で按分した。雇用量と賃金は国勢調査と賃金構造基本統計調査から算出した。産業ごとに、操作変数を用いたパネル固定効果モデルを使用して雇用圏別に分析した。
主な分析結果
サービス業のグローバル化の進展は下記のような影響が観察された。
①情報通信産業での雇用量増加と労働力の流入(都市化)、賃金の上昇。
②学術研究・専門技術サービス業での代替効果(国内労働力と海外労働力は置き換えられる関係)。
③宿泊・飲食サービス業の雇用量増加と賃金下落、しかし都市化は見られない。
政策含意
①人口減少が進む中で、地方の中心都市に賃金水準の高い雇用を創出し、集約化することを求めるならば、情報通信産業におけるグローバル化が労働市場に与える影響の結果はその達成に役立つ。
②イノベーションは経済成長の源泉の一つであり、高賃金な仕事を増やす上でも欠かせないが、学術研究・専門技術サービス業の結果では立地に依存しない性質が強く発揮されていたので、国内に拠点を置くメリットを高めるような政策が求められる。
③消費地に依存する産業に対して、高い賃金の仕事を創出するためには、例えば、海外進出に伴い事業が拡大し、ロボットなどにも投資ができるようになった際に、効率化して人間には単純な仕事が残るのではなく、やりがいがあり高賃金の業務が残るような仕組みが必要である。
*都市化は雇用圏外からの流入を示す。