執筆者 | Huu Nhan DUONG(モナシュ大学)/石川 城太(ファカルティフェロー)/西出 勝正(早稲田大学)/S. Ghon RHEE(ハワイ大学マノア校)/笹原 彰(慶應義塾大学) |
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研究プロジェクト | グローバル経済が直面する政策課題の分析 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「グローバル経済が直面する政策課題の分析」プロジェクト
ロシアによるウクライナへの侵攻やパレスチナ・イスラエル戦争など、2020年代に入ってから地政学的なリスクが高まっている。図は1985年以降の世界各地域の地政学的リスク指数の動きを示したものであるが、2020年以降に大きな上昇が見られる。このような地政学的リスクの高まりは企業行動にどのような影響を及ぼすだろうか。
本研究では、日本の企業レベルのデータを用いて、地政学的リスクが現金保有高、固定資産購入、研究開発費支出などにどのような影響を与えたのかを検証した。経済政策の不確実性が企業行動に与える影響などは既に多くなされているが(例えばDuong et al, 2020)、地政学的リスクの影響を企業レベルのデータを用いて検証した研究はまだ蓄積途上の段階にあり、本研究はそのギャップを埋める研究と位置付けられる。

本研究で用いるのは2002年から2022年の日本の製造業の企業レベルのパネルデータで、各企業の世界各国(または世界各地域への)海外直接投資額(以下FDI)と貿易額を用いて、企業の海外展開を通じてどのように諸外国の地政学的リスクの高まりが企業行動に影響を与えたのかを検証した。地政学的リスクを測る指数として、Caldara and Iacoviello (2022)から取得したデータを用いた。
分析の結果、日本の製造業企業の中でも特に大企業(前年の売上高が分布の90パーセンタイル以上の企業)が、FDIを通じた地政学的リスクの上昇への曝露に反応して現金保有高、資産購入額、研究開発費支出などを低下させていることがわかった。貿易を通じた地政学的リスクの上昇への曝露はFDIを通じた曝露に比べて、企業行動に大きな影響を及ぼさないことも示された。FDIは現地に資本を移転させて経済活動を行うため、貿易に比べてサンクコストが大きいことから、企業はFDIを通じた地政学的リスクにより敏感に反応したものと解釈できる。また、大企業は中小企業に比べて事業領域が広く海外進出拠点もより広範囲にわたるため、企業内調整の余地が大きく、地政学的リスクに対してタイムリーに反応できることが示唆される。
- 参考文献
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- Caldara, Dario and Matteo Iacoviello (2022). “Measuring Geopolitical Risk.” American Economic Review, 112(4): 1194–1225.
- Duong, Huu Nhan, Justin Hung Nguyen, My Nguyen, and S. Ghon Rhee (2020). “Navigating through Economic Policy Uncertainty: The Role of Corporate Cash Holdings.” Journal of Corporate Finance, 62(June): 101607.