執筆者 | 川上 淳之(東洋大学)/鶴 光太郎(ファカルティフェロー)/久米 功一(東洋大学) |
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研究プロジェクト | AI時代の雇用・教育改革 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「AI時代の雇用・教育改革」プロジェクト
働き方改革以降、東洋経済「CSR調査」によれば、副業を認める企業の割合は2017年の15%から半数以上に上昇し、副業を持つ人数も245万人から305万人に達している。働き方改革により副業を推し進める政策が採られた背景について、「働き方改革実行計画」では「副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効である」と示されている。「オープン・イノベーション」とは、その提唱者であるChesbroughの“Open Innovation: The New Imperative for Creating and Profiting from Technology”によれば、自社のイノベーションについて考えれば、社外から得られるアイデアや知識を用いてイノベーションを進めることである。副業の持つ副次的な収入以外の役割は、スキルの獲得やモチベーションの向上について企業や労働者に対するアンケート調査からも示され、既存の実証研究からも蓄積されつつある。ただし、当初の政策目的である副業が持つオープンイノベーションに与える効果については、検証が行われていない。
以上の問題意識をうけ、本研究は経済産業研究所が2021年11月に実施した「With コロナ・AI 時代における新たな働き方に関するインターネット調査」で収集された調査データを使い、副業を持っている労働者を対象に、副業を通じたスキルの獲得・ビジネスアイデアの発見・人的ネットワークの形成・ストレスの解消が本業の役に立っていると回答する確率を高める要因について、本業と副業との関係に注目して検証を行った。本業と副業の関係は、2つの仕事が同業種であるか異業種であるか、また、仕事に求められるタスクが異なっているかどうかを用いた。
タスクが異なっているかを示す指標には、近年タスク特殊的人的資本の実証分析で用いられている日本版O-NETの職業ごとに推計される、仕事に必要なタスクのスコア化された情報を用いた。具体的には、本業の職業と副業の職業の間でタスク構成が離れていれば高い値をとるタスク距離を計算し、それを本業と副業のタスク面の類似指標とした。
図1をみると、スキル獲得においては、同業種の副業選択の方が役に立つとする割合が高く、職種でみれば、本業に近い職種、または、離れた職種でその割合はより高くなっている。人的ネットワーク形成においては、同業種の副業選択の方が役に立つとする割合が高く、本業と離れた職種の副業選択でその割合はさらに高くなる。ビジネスアイデアの取得については、明確な傾向がみえにくいものの、異業種において、本業と近いまたは離れた職種の副業選択において役立つ割合が比較的高い。ストレス解消については、職種に関わらず異業種の副業選択が役立つとする割合が高い。こうした傾向をより厳密に確認するために、上記の4分野毎に副業選択が役立つか否か被説明変数とし、副業が本業と同業種か否か、また、副業と本業の職種の類似度をみたタスク距離などを説明変数とした回帰分析を行ったが、ほぼ同様の結果が得られた。

政策的インプリケーション
政府は早くから副業のオープンイノベーションへの効果を期待していたが、それを裏付ける内外の実証分析は皆無であった。本分析が、副業の保有において、政策目標であるオープンイノベーションを高めるビジネスのアイデアの獲得、人的ネットワーク形成については、それぞれ同業種、同職種よりも離れた経験が得られる副業が有効であることを実証的に明らかにした意義、政策インプリケーションは大きいといえる。