執筆者 | 佐野 晋平(神戸大学)/安井 健悟(青山学院大学)/鶴 光太郎(ファカルティフェロー)/久米 功一(東洋大学) |
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研究プロジェクト | AI時代の雇用・教育改革 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「AI時代の雇用・教育改革」プロジェクト
経済成長を促進する経路、あるいは労働生産性向上において技術は重要だが、技術を作り出すあるいは使いこなすうえでのSTEMスキル、それを構成する数的スキルは重要であり、その形成においての学校教育の役割は無視できない。それだけではなく政策的にも、急速な技術進歩に対応するための学びの基盤としての科目横断的な学習が推進されている。学校教育を通した数的スキル形成は重要であるものの、男女差があること、その差は年齢や成績分布により異なることが先行研究より明らかとなっている。日本での数的スキルの傾向や大学理系学部への進学の分析には少なからず存在するが、男女差に焦点をあてた研究は多くなく、男女差を縮小させる要因については未解明である。
本稿では、「全世代的な教育・訓練と認知・非認知能力に関するインターネット調査」の個票データを用い、回顧データである特徴を活かし、小学校から大学進学における教育成果の男女差を実証的に分析した。全世代データは、教育・訓練と能力・スキルの関係の解明を目的とし、現在および過去の情報、特に義務教育から高等教育の就学期に関して、各教育段階における状況を調査した点で特徴的である。そのため、同一個人の幼少期から進学までの情報を把握可能である。本稿では、「小学6年生の時、あなたの以下の科目の成績は、学年の中でどのくらいでしたか」の「算数」に対し、上の方から下の方まで5段階の回答を用い、値が大きいほど算数が得意であるかの指標について、小学校だけではなく中学、高校の数学科目に関する指標、高校での科目履修、大学受験で利用した科目、進学の状況の男女差に注目し分析を行った。
分析結果によると、算数・数学の得意度は小学生時点で平均的に差が確認されるが、その差は中学校、高校と拡大すること、特に成績上位層での差が拡大することが確認された。小学校の算数得意度の男女差から高校の数学科目選択、理工系選択にいたるまでの男女差は年齢が上がるにつれて大きくなる。さらに、高校での理数系科目の履修、大学受験における理数系科目の選択に男女差も確認された。
図1は、個人属性を一定にしたうえで、被説明変数である理系大学進学、受験科目として理系を科目したかどうかについて数学の得意度ごとの限界効果の男女差を可視化したものである。数学が得意ではない(1あるいは2である)場合は、理系選択について男女差は観察されないが、得意であるとする回答が増えるにつれ男女差は拡大していく。最も得意である(5)と回答した場合、理系学部に進学する確率は男女で約18%異なることがわかる。
図2では、図1で観察された男女差が緩和する可能性があるかを検討する。図2によると、ジェンダー平等意識の高まりや地域の理系学部定員の多さは、数学が得意な場合の理系への進学確率の男女差を縮小させる可能性が示唆された。
政策的インプリケーション
男女格差縮小のための方策としては、女子生徒に対する情報提供や啓蒙活動、学生や教師だけではなく両親など身近な人々の持つアンコンシャスバイアスの削減などが中心となっている。しかし、本稿ではより幅広い視点から、地域におけるジェンダー平等意識強化や理系定員拡大といった、女性の高等教育への進学を制約する要因を除去することが男女格差の削減に効果を持ちうることを示し、より多様で包括的な政策対応を促すという意味で政策貢献になりうると考えられる。

