執筆者 | 井上 寛康(兵庫県立大学 / 理化学研究所計算科学研究センター)/戸堂 康之(ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 経済・社会ネットワークと安全保障の関係に関する研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「経済・社会ネットワークと安全保障の関係に関する研究」プロジェクト
本研究では、企業に関する良いニュースや悪いニュースがその企業の株価にどのような影響を与えるか、さらにその企業のサプライヤ企業やクライアント企業の株価にどのように影響するかを、世界中の上場企業および日本の上場企業の大規模なサンプルを用いて調査した。各ニュース記事のポジティブ性やネガティブ性の度合いは、金融情報に特化して調整された自然言語処理モデルであるFinBERTによって作成した。世界の企業のサプライチェーンは主に財務報告書に基づき、日本企業のサプライチェーンは大規模な企業レベルの調査データに基づいて特定されている。
分析の結果、ニュースの開示前から、そのニュースが言及された企業の株価変動率が上昇していることが確認された。これはおそらく、非公開チャネルを通じて情報が拡散したことが原因である。また、ポジティブなニュースは、言及された企業のサプライヤ企業やクライアント企業の株価も開示前から上昇させ、市場価値がサプライチェーンを通じて伝播することが示された(図1,2)。さらに、ニュース開示後の株価の影響は、言及された企業およびその取引先企業に対して、一般的に開示前の影響よりも大きいことが確認された。この開示後と開示前の効果のポジティブな差は、非公開チャネルによる情報拡散の影響をコントロールした上で、ポジティブなニュース開示による純効果と考えられる。しかし、日本の取引先企業に対する開示後の効果は開示前の効果よりも小さく、これは世界の企業における結果とは一致しない。この違いは、日本のサプライチェーン関係が他国と比べて強固である一方、その知識が特定の投資家に限られているためと考えられる。
本研究により、ある企業へのポジティブ・ネガティブなニュースは他の企業に非常に素早く伝わることが示されたことから、特定の企業・産業への施策が与える影響が当該企業・産業外に伝わる、その速さに留意するべきである。特に日本ではポジティブなニュースがニュースの正式な公開よりも早く伝わる独自性が示されたことも併せて留意すべきである 。