ノンテクニカルサマリー

企業はサプライチェーンの混乱にどのように対応するか?東日本大震災からの示唆

執筆者 川窪 悦章(東京大学)/鈴木 崇文(愛知淑徳大学)
研究プロジェクト 企業行動とマクロ経済
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「企業行動とマクロ経済」プロジェクト

近年、サプライチェーンが寸断される事例が世界的に増加している。本研究では、日本における企業レベルの取引ネットワークに関するパネルデータを用いて、東日本大震災が企業のパフォーマンスとサプライチェーンにどのような影響を与えたかを分析した。具体的には、震災の影響を直接受けていない、被災地外の買い手企業に焦点を当て、2011年以前に被災地内にサプライヤーを有していた企業と有していなかった企業を比較するDID (Difference in Differences) 推定を行った。データは、東京商工リサーチの取引ネットワーク情報及び経済産業省企業活動基本調査の調査票情報を用いており、サンプル期間は2007年から2018年までである。

図1 企業のパフォーマンスへの影響
図1 企業のパフォーマンスへの影響

図1では、サプライチェーン・ショックを受けた企業のパフォーマンスの変化を示している。Panel (a) は売上の対数値、(b) は従業員数の対数値を示している。いずれも、サプライチェーン・ショックを受けた企業は、そうでない企業と比較して、平均的には、負の影響を受けていないことが明らかになった。短期的にも負の影響がみられなかったことは特筆に値するだろう。論文内では、これら以外にも様々な指標を用いているが、一貫して同様のパターンが見て取れる。

この結果の背景にある要因として考えられるのは、取引関係の迅速な組替を行うことで企業が負の影響を回避できたという仮説である。したがって、次に、企業による取引関係の組替を分析したところ、被災地内にサプライヤーを持っていた企業は、震災後に被災地外に位置するサプライヤーの割合が増加しており、サプライヤーとの関係を大幅に調整したことが分かる。

図2 距離帯ごとの新規サプライヤー数
図2 距離帯ごとの新規サプライヤー数

最後に、取引関係の組替にあたって、新しい取引相手との地理的な関係を分析した。図2では、取引先を新たに増やした数を距離帯別に示している。分析結果からは、自社の近くに取引先を見つけていることが見て取れる。また、この行動は一時的なものではなく、2018年まで継続的に観察されたことも注目に値する。

このように、本研究からは、企業が大きなサプライチェーン・ショックに直面した際に、取引ネットワークを迅速に調整することが重要であることを示唆されている。加えて、国際的な文脈においても観察されているニアショアリング(注1)に類似したパターンが日本国内においても観察されていることは興味深い結果であると言える。以上から、本研究は東日本大震災という未曽有の災害に注目し、サプライチェーン・ショックに対して企業がどのように対処すべきかについての示唆を提示している。

脚注
  1. ^ 自社の近くで供給を受けること。