執筆者 | 小黒 一正(コンサルティングフェロー)/川崎 真規(日本総合研究所) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
近年、伝統的な「紙巻たばこ」の販売数量が年々縮小し、IQOSなどの「加熱式たばこ」や、JUULなどの「電子たばこ」(e-cigarette)といった、いわゆる「新型たばこ」の利用が日本国内でも急速に広がってきている。このうち、特に問題なのは、後者の「電子たばこ」である。
前者の「加熱式たばこ」は、燃焼させずに加熱で発生した蒸気を吸引する仕組みだが、たばこ葉を使用しているため、たばこ事業法に基づき、伝統的な「紙巻たばこ」と同様に同法の規制対象に位置付けられ、たばこ税が課されている。なお、加熱のためのデバイス(電気機器)は、「たばこ用具」に位置付けられている。
他方、後者の「電子たばこ」は、デバイス内の液体(リキッド)を電気で加熱することにより発生する蒸気を吸引する仕組みとなっており、ニコチン入りリキッドにはたばこ葉から抽出したニコチンが入っているが、たばこ葉自体は使用していない。海外では電子たばこを「たばこ製品」に位置付けるケースもあるが、日本では、たばこ葉自体を使用していないため、現在のところ、たばこ事業法の規制対象とはならず、たばこ税も課されていない。
また、電子たばこの「リキッド」には、ニコチンの「有」「無」で2種類に分けられる。このうち、日本では、ニコチン入りのリキッドは医薬品、リキッドを加熱するデバイスは医療機器に位置付けられ、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)の規制対象となっている。現在のところ、ニコチン入りの電子たばこは日本では承認されておらず、日本国内で販売されている電子たばこはニコチンを含まない製品となっている。
しかしながら、インターネットなどを利用すれば、個人輸入といった形式で海外製の電子たばこ(ニコチン入り)を入手することは可能であり、日本国内でも水面下で、電子たばこの利用が徐々に広がってきている可能性がある。
このため、本稿では、10000人規模のデータ(LINEリサーチを活用したアンケート調査データ)等を利用し、ウェイトバック集計法などにより、日本の電子たばこ市場規模に関する推計を行っている。まず、分析ではJT調査のたばこ製品の定義との関係から「推計方法1」と「推計方法2」を採用しているが、分析の結果、ニコチン入り電子たばこの市場規模は322億円~335億円である可能性が確認できた(図表)。この推計結果より、ニコチン入りの電子たばこは日本では現在承認されていないものの、海外製の電子たばこ(ニコチン入り)が個人輸入などで国内に流通し、利用されていることも把握できた。また、たばこ事業法を改正し、仮にニコチン入り電子たばこに対しても「たばこ税等」を課すと、約169億円~約176億円の税収増を獲得できる可能性が分かった。いずれにせよ、日本では現在承認されていないが、インターネット等で個人が海外製のニコチン入りの電子たばこを入手することは可能であり、その規制のあり方につき検討を深める必要がある。