ノンテクニカルサマリー

政府開発援助は援助国に経済的利益をもたらすのか?:日本のインフラ輸出のケーススタディ

執筆者 西立野 修平(リサーチアソシエイト)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

政府開発援助(Official Development Assistance: ODA)には、二つの役割がある。一つは、被援助国の貧困削減および所得や福祉の向上を目的とした所得移転、もう一つは、援助国自身の国益を実現するための政策ツールとしての役割である。近年、援助国を取り巻く経済・政治・安全保障環境が急速に変化していることを背景に、後者の役割がますます重要になってきている。本稿では、ODAが援助国自身にもたらす経済的利益に着目し、日本のODAがインフラ輸出に与える効果とそのメカニズムを分析した。図1は、被援助国158カ国に関する日本のODA供与額と日本企業のインフラプロジェクトの受注件数の散布図である。両変数とも1970~2020年の平均値を自然対数表示にし、さらに被援助国の人口規模で標準化している。日本のODAとインフラ輸出の間には正の相関があり、ODAのインフラ輸出促進効果を示唆している。しかし、図1からは、日本のODAがインフラ輸出に与える因果効果やそのメカニズムについては知る事が出来ない。

図1:日本のODA供与額と日本企業の海外インフラプロジョクト受注件数の平均値(158カ国、1970~2020年)
図1:日本のODA供与額と日本企業の海外インフラプロジョクト受注件数の平均値(158カ国、1970~2020年)
注:両変数とも人口規模で標準化し自然対数表示

本稿では、日本のODAとインフラ輸出の関係をポワソン固定効果モデルを使って分析した。ポワソンモデルを使用した理由は、被説明変数(日本企業の被援助国におけるインフラプロジェクト受注件数)が限られた正の値をとるカウントデータであり、分布がゼロに集中している為である。分析の結果、1970年から2020年の間に日本が供与したODAによって、日本のインフラ輸出は約1600件増加したことが分かった。これは、同期間のインフラ輸出総数の17%に相当する。本稿では、さらに、ODAのインフラ輸出促進効果は、日本が被援助国に対して贈与と借款の両方を同時に供与した場合に最も大きくなることを明らかにした。本稿では、円借款におけるタイド援助のインフラ輸出促進効果も検証したが、アンタイド円借款との間に有意差は見られなかった。

2012年、第二次安倍内閣は、「民間投資を喚起する成長戦略」の一環として、経協インフラ戦略会議を設置し、2013年5月に「インフラシステム輸出戦略」を発表した。そこでは、2020年までに日本企業の海外インフラシステム受注額年間30兆円を達成することが目標として掲げられた。同戦略は、2020年12月に改訂され、目標額は2025年までに34兆円へと引き上げられた。目標達成の具体策として、「企業のグローバル競争力強化に向けた官民連携の推進」をあげ、経済協力の戦略的展開(F/Sや実証事業の充実、技術協力・無償資金協力の活用、円借款の活用など)を具体的施策の一つとした。実際、円借款事業の案件形成において、準備段階でのF/Sや環境アセスメントが重要な役割を果たす。本研究で得られた分析結果は、国際協力機構が技術協力を通じて行っているこうした事前調査支援が、ODAのインフラ輸出促進効果を高める上で有効である可能性を示唆している。2021年の技術協力に占める調査団派遣の割合は拠出額ベースで23%に留まっており、調査団派遣を増加させることが具体的な施策として考え得る。