ノンテクニカルサマリー

選択者の選択:節電ポイント政策における自己選択主導のターゲティング

執筆者 依田 高典(京都大学)/石原 卓典(京都先端科学大学)/伊藤 公一朗(客員研究員)/木戸 大道(京都大学)/北川 透(ブラウン大学 / UCL)/坂口 翔政(東京大学)/佐々木 周作(大阪大学)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

政策立案者が予算の制約に直面した場合、社会的セーフティネットプログラムからエネルギー効率のインセンティブに至る様々な経済政策において、誰に政策介入を行うべきかを特定することが重要となる。プログラムの対象を特定する方法として通常経済学では2つの手法が用いられる。1つ目の方法は、収入などの観察可能な特性に基づいて参加できる人を選択する方法であり、2つ目の方法は、人々に自己選択させる方法である。本論文では、これら2つのアプローチを最適に統合する方法をデータに基づき開発した。

本手法を用い、一般世帯向けの電力リベートプログラムを改善する分析を行った。このリベートプログラムの目標は、電力料金が非ピーク時よりも大幅に高くなる傾向があるピーク需要時に、省エネを奨励するものである。電力を節約することには社会的(および私的)な便益がある。しかし、政府の支出という面で見ると、政策の実施にはコストもかかる。したがって、リベートプログラムを実施する社会厚生は、正、負、またはゼロになる可能性がある。本論文のフィールド実験では、日本の3,870世帯を、リベートプログラムへの参加、不参加、および自己選択の3つのグループに無作為に割り当て分析を行った。

以下の表の前半部分では、政策担当者によるターゲティングがない場合の3つの政策(100%の世帯を参加させる政策、100%の世帯を不参加とする政策、および 100%の世帯を自己選択させる政策)の結果を示している。また、表の後半部分では、政策担当者によるターゲティングを行う場合の結果を示している。準最適ターゲティング(selection-absent targeting)では、世帯の観測可能な変数のみを使ってターゲティング政策を行う。また、最適なターゲティング政策(selection-driven targeting)では観測可能な変数に加えて、自己選択における行動も重要な情報として用いたターゲティングを構築している。

ターゲティング政策を計算する上では機械学習を用いた計算によって、どの世帯がどのグループに割り当てられるかを解明している(share of customers in each arm)。表のGU, GT, GSは、機械学習による計算の結果、どれだけの世帯がプログラムに参加しないグループ(U)、プログラムに参加するグループ(T)、そして自己選択をするグループ(S)に割り当てられたかを示している。

表の結果にあるように、自己選択なしのターゲティング政策(つまり、世帯の観測可能な変数のみを使って行う準最適なターゲティング)は、消費者あたり387.8円の社会厚生を達成することを示している。またこの政策下では、消費者の52.4%がプログラム参加グループへ割り当てられ、47.6%が不参加のグループに割り当てられると推定された。さらに、自己選択を組み込んだターゲティング(つまり、観測可能な変数に加えて、自己選択における行動も重要な情報として用いた最適なターゲティング)では、消費者1人あたり553.7円の社会厚生が得られることがわかった。この政策によると、消費者の31.4%がプログラム参加グループへ割り当てられ、23.9%が不参加グループ、44.7%が自己選択グループへと割り当てられることがわかった。

経済政策において政策の効率性は重要であるが、公平性も重要な観点になる。世帯収入分布全体で消費者に分配される平均リベート額を比較したところ、最適な政策は、所得の高い世帯により多くのリベート額を分配する政策であることがわかった。つまり、このターゲティングは政策による効率性の向上を最大化するものの、公平性に関心のある政策立案者には魅力的ではない可能性があることが示された。この点に関する懸念に対処するために、公平性と効率のトレードオフのバランスを取る方法も本論文では分析を行い、本論文で示した手法が公平性と効率性のバランスを取る政策においても有用であることを示している。

図 各政策で得られる社会厚生
図 各政策で得られる社会厚生
脚注:表の前半部分では、政策担当者によるターゲティングがない場合の3つの政策 (100%の世帯を参加させる政策、100%の世帯を不参加とする政策、および 100%の世帯を自己選択させる政策) の結果を示している。また、表の後半部分では、政策担当者によるターゲティングを行う場合の結果を示している。準最適ターゲティング(selection-absent targeting)では、世帯の観測可能な変数のみを使ってターゲティング政策を行う。また、最適なターゲティング政策(selection-driven targeting)では観測可能な変数に加えて、自己選択における行動も重要な情報として用いたターゲティングを構築している。ターゲティング政策を計算する上では機械学習を用いた計算によって、どの世帯がどのグループに割り当てられるかを解明している(share of customers in each arm)。表のGU, GT, GSは、機械学習による計算の結果、どれだけの世帯がプログラムに参加しないグループ(U)、プログラムに参加するグループ(T)、そして自己選択をするグループ(S)に割り当てられたかを示している。