ノンテクニカルサマリー

貿易のための援助(AfT)がドナー国輸出に与えた効果の検証:なぜ日本の効果は異なるのか?

執筆者 西立野 修平(リサーチアソシエイト)/梅谷 隼人(神戸大学)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

貿易のための援助(Aid-for-Trade: AfT)は、2005年12月に世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)の香港閣僚会議において合意されたWTOの取組の一つである。AfTの目的は、供給サイド/貿易関連のインフラを強化することで、途上国の輸出競争力を高め、経済成長と貧困削減を実現することにある。AfTは、経済インフラ、生産能力構築および貿易政策支援の3つのセクターから構成されている。グラフ1で示されている通り、AfT開始以降、2国間AfT拠出額は継続的に増加し、2019年には年間拠出額が世界合計で195億ドルに達した。これは、2国間政府開発援助(Official Development Assistance: ODA)拠出額の25%に相当する。これまで、AfTが被援助国の輸出促進に与えた効果に関する実証研究は数多く行われ、その有効性が示されてきた。

他方、AfTがドナー国自身に与える経済効果については、あまり注目されてこなかった。特に、AfTの輸出促進効果に関するドナー国間の異質性については殆ど研究が行われていない。ドナー国への効果に着目する意義は二つある。一つは、先進国経済の停滞および財政状況の悪化により、対外援助と国益の関係が重要視されるようになってきたこと、もう一つは、南南貿易の拡大により、途上国の輸出市場における先進国のシェアが低下し、対外援助による輸出促進効果への期待が高まっていることである。途上国への財輸出に占める先進国の割合は、2001年から2019年の間に、58%から41%へ低下した。AfTの輸出促進効果に関するドナー国間の異質性に注目する理由は、援助政策や理念、重点セクターや地域がドナー国間で大きくことなるためである。例えば、日本は、経済インフラ分野の支援をアジア地域を中心に主に借款の形式で行っているが、他方、米国は、生産能力構築分野の支援を中東、北アフリカおよび南アジア地域を中心に贈与の形式で行っている(表1)。

本稿では、構造重力モデルの推定を通して、特に上位5カ国(日本、米国、英国、ドイツ、フランス)に焦点をあて、AfTがドナー国の財輸出に与えた効果を分析した。構造重力モデルとは、2国間の距離と各国の経済規模で2国間の貿易額を予測する重力モデルを経済理論で定式化したモデルであり、貿易費用や貿易政策の効果を推定する際に用いられる実証研究の枠組みである。分析には、3次元パネルデータ(ドナー45ヵ国、被援助国140カ国、2002年~2019年)を使用し、ポワソン疑似最尤推定法を推定手法として用いた。ポワソン疑似最尤推定法では、ポワソン分布を仮定し最尤推定を行うことで、各パラメータを推定する。分析の結果、日本の財輸出に対するAfTの弾性値は正で、他の主要ドナー国と比べて、大きいことが分かった。本稿ではさらに、世界のインフラ事業契約のデータを使用し、日本のAfTの輸出促進効果のメカニズムを分析した。分析の結果、日本のAfT(特に経済インフラ)は、日本企業の海外インフラ受注を促進していたことが明らかになった。このことは、日本のAfTを通じて日本のインフラ輸出が促進され、被援助国におけるインフラプロジェクトで使用する資本財等の日本からの輸入が増加したことを示唆している。本研究の分析結果は、日本の対外援助が、自国の対外直接投資のみならず輸出促進を通じて、自国の経済的利益を実現していることを明らかにしたという点において、我が国の援助政策の正当性を支持する。

グラフ1:二国間AfTの推移とODAに占める割合
グラフ1:二国間AfTの推移とODAに占める割合
出典:OECD [Creditor Reporting System]より筆者作成
表1:主要ドナー国のAfTの比較
表1:主要ドナー国のAfTの比較
注: この表は、2002年~2019年の間の二国間AfT拠出総額に基づいている。
出典:OECD [Creditor Reporting System]より筆者作成。