ノンテクニカルサマリー

日本企業のマークアップと企業間取引

執筆者 中村 豪(東京経済大学)/大橋 弘(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 産業組織に関する基盤的政策研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「産業組織に関する基盤的政策研究」プロジェクト

本研究では、企業がつけるマークアップの水準が、その企業が他企業と持つ取引関係と、どのように相関しているかを日本企業の包括的なパネルデータを用いて実証的に分析したものである。より具体的には、各企業のマークアップと、その企業にとっての調達元企業(supplier)数、および販売先(customer)企業数との間にある相関を調べている。分析対象は2007~2018年の日本企業であり、経済産業省「企業活動基本調査」と東京商工リサーチの企業相関ファイルのデータからパネルデータを構築している。

主要な結果のうちでも特に注目すべきは、以下の図1(Figure 3aの左上パネルを抜粋)に示されているように、調達元企業(supplier)数とマークアップの間には負の相関があるという結果である。

図1
図1

調達元企業数が多ければ、企業はそれらのうちでより有利な条件で取引できるところを選び、製造費用を抑えてマークアップを高める余地が生じると考えられるところ、実際にはその直観とは逆の結果が得られた。この結果は製造業、非製造業にサンプルを分割しても同様に観察でき、頑健なものといえる。

この結果を考察するために、本研究ではさらに取引先企業数の多寡と、それら取引先企業の属性の相関を詳細に分析している。その中で、調達元企業数が多い企業においては、それら調達元企業は自身と似通った生産技術を用いていること(以下の図2。Figure 6の上の図を抜粋)や、自身と似通った市場を持つことなどが明らかになった。

図2
図2

調達元企業数が企業規模と正の相関を持つことも考え合わせると、企業規模が小さいうちは限られた数の調達元企業から投入要素を調達し、それを調達元が供給しないような市場向けに作りかえることで、他社にはない財を供給して高いマークアップを実現しているのではないか、さらにそのような企業が成長する過程で、次第に自社の製品に近い投入要素も外注するようになり、マークアップが抑えられるのではないか、といった仮説も考えられる。本研究は、このような企業の成長に伴いどのような取引関係を構築しているかといった研究課題について、その基礎となる定型的事実を提供するものとなっている。