ノンテクニカルサマリー

職場における健康リスク要因の学歴格差-健康診断結果を用いた分解分析

執筆者 相澤 俊明(北海道大学)
研究プロジェクト 人事施策の生産性効果と経営の質
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人事施策の生産性効果と経営の質」プロジェクト

「すべての人に健康と福祉を」という目標が国連の持続可能な開発目標の1つに定められているように、近年ではすべての人が等しく健康状態を享受できるような環境を構築することに関心が高まっている。健康に影響を与えうる社会経済的要因は様々存在するが、本稿では学歴別の健康格差に着目した。健康格差を定量的に分析することにより、健康促進を通じて人的資本を高めるための有効性の高い施策をデザインし、優先すべき対象を明確化するための議論の土台を構築することが狙いである。

本稿では、ある日本企業1社の職場における慢性疾患リスクに関する学歴格差、特に大学学部卒以上と学部卒未満の男性従業員の間での、過体重、高血圧、脂質異常、糖尿病のリスク要因に注目し、健康の学歴差を分析した。次の図は2016年度から2019年度において、学歴別に高リスクの従業員割合を示したものである。

[ 図を拡大 ]
図

図では、どの年度においても、高学歴であるほど健康状態が良い割合が高いことが表されている。本稿では、大学学部卒以上と学部卒未満の男性従業員の健康リスクの差に着目した。健康リスクの差の一部は、年齢、家族構成、所得、生活習慣、働き方の差と関連していると考えられるため、本稿では観察された健康リスク割合の差のうち、どれくらいの割合が観察されうる要因の差によって説明されるのかを分析した。

分析結果によれば、全ての健康リスク要因において、統計学的に有意な健康格差が確認された。2つの学歴グループにおける、飲酒頻度、喫煙行動、職位、精神的困憊、家族構成の差が、観察された健康リスクの差を有意に説明することが確認された。これらの結果は、全従業員を対象にした健康施策に加え、社会経済的ステータスに応じた追加的な施策を行うことを通じて健康格差を縮小させることの必要性を示唆している。一方で、観察されうる要因では説明しきれない差に関してはさらなる研究が必要であり、学歴に関する健康格差を縮小させるためには、職場内のみならず、社会的な取り組みも必要になる。