ノンテクニカルサマリー

COVID-19はオンライン消費に恒久的な変化をもたらしたか?

執筆者 井上 寛康(兵庫県立大学 / 科学技術振興機構 / JST)/戸堂 康之(ファカルティフェロー)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

新型コロナウイルスの感染拡大およびそれに伴う緊急事態宣言の発令によって、人々は在宅で過ごすことが増えた。それによって、オンラインによる消費が増えたと言われる。

この論文は、Yahoo! Shoppingのオンライン消費データを利用して、感染者数の拡大と緊急事態宣言の発令が市区町村ごとのオンライン消費に及ぼした影響を分析したものである。さらに、緊急事態宣言後にオンライン消費が宣言前の水準に戻るのか、コロナ禍を通してオンライン消費のトレンドが上昇したのかを分析することで、オンライン消費の長期的な趨勢を見ている。

図1の左の図は、感染者数がオンライン消費額に及ぼす影響を、第1波から第5波までに分けて推計した結果を表したものである。青いマルが推計値を、横棒がその95%信頼区間を表しているので、横棒が0を表す赤い縦棒にかかっていれば、その影響は統計学的に有意ではなく、影響がないと判断できる。また、マルと横棒が赤い縦棒の右側にあればその影響はプラス、左側ならマイナスと解釈できる。

この図からは、感染者数は第1波(2020年1月~6月)、第2波(2020年6月~9月)ではオンライン消費を増やしたが、第3波以降ではその影響は見られないことがわかる。

図1の真ん中の図は緊急事態宣言の影響を示している。最初の緊急事態宣言直後の2020年4月には宣言によってオンライン消費が増えたが、5月にはその影響がなくなっている。2021年にも同様に、緊急事態宣言発令当初はオンライン消費が増えるが、その後緊急事態宣言が長期化するにしたがって、その影響がなくなっていく。

図1の右の図は、緊急事態宣言後のオンライン消費は宣言前と比べて増加していないことを示している。

さらに図2は、購買額から感染者数・緊急事態宣言の効果、市町村固有の特性の効果を除いて、購買額のトレンドを見たものである。2019年からコロナ感染が拡大した2020年3月ころまでは上昇トレンドにあったが、感染拡大後にはそのトレンドは大きく変化していない。

つまり、消費者はコロナ禍で感染に対する恐怖心や緊急事態宣言の規制のために外出できなくなり、オンライン消費を活用するようになったものの、感染が収まって宣言が解除された後は、対面の消費に戻ったと考えられる。

コロナ禍でオンライン消費を経験したことで、消費者は便利なオンライン消費に恒久的に移行していくという考え方もあるが、少なくとも日本のケースではそれは当てはまらないということになる。これは、消費者が社会的コミュニケーションを求めて対面での買い物を求めていたり、オンラインでの購買に不便さや情報漏洩のリスクを感じたりしているためだろう。

したがって、コロナ後にも日本でのオンライン消費の増加を継続していくためには、オンライン購買サイトは消費者のこれらの懸念を払しょくしてより便利なサービスを提供するための技術開発を行っていく必要がある。また、オンライン消費による情報漏洩に対しては、政府は規制・監督の強化などで対応していくべきであろう。

図1:感染者数・緊急事態宣言が市区町村ごとのオンライン購買額に及ぼす効果
図1:感染者数・緊急事態宣言が市区町村ごとのオンライン購買額に及ぼす効果
注:左図は人口当たり感染者数1%の増加がオンライン購買額を何%増やす・減らすか、中・右図は緊急事態宣言の発令時およびその後にオンライン購買額がどのくらいの割合(%ではなく)増やす・減らすかを表す。
図2:購買額のトレンド
図2:購買額のトレンド
注:購買額から感染者数・緊急事態宣言の効果、市町村固有の特性の効果を除いた年月日固有の効果の推移を表す。