ノンテクニカルサマリー

オフショアリングと中国からの輸入が日本の地域雇用に及ぼす影響

執筆者 清田 耕造(リサーチアソシエイト)/中島 賢太郎(ファカルティフェロー)/滝澤 美帆(学習院大学)
研究プロジェクト 企業成長のエンジン:因果推論による検討
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業成長のエンジン:因果推論による検討」プロジェクト

日本企業における海外生産比率(海外現地法人の売上高と国内法人の売上高の和に対する現地法人の売上高の比率)は1995年の22.8%から2016年には40.9%まで増加している。一方で、国内における製造業従業者数は同じ期間に1,300万人から760万人へと減少している。こうした企業の海外生産活動の活発化と国内の製造業従業者の減少の間には関係はあるのだろうか。

これまでも直接投資と国内雇用の関係については、国、あるいは産業レベルでの研究が数多く行われているが、多くの研究では、直接投資が国内の雇用に及ぼすマイナスの影響は確認されていない。例えば、Ito and Tanaka (2014)では、海外展開している企業の国内取引先企業に注目し、取引先企業の雇用が有意に増えるといった結果を示している。

しかしながら、地域によっては直接投資が雇用にマイナスの影響を及ぼしている可能性がある。図は、通勤圏別に製造業従業者の1995年から2016年の変化率を示したものである。この図より、地域により、製造業従業者の変化率には大きな違いがあることがわかる。こうした雇用変動の地域差が直接投資によって引き起こされているかについては、これまで分析の対象とされてこなかった。本研究では、『海外事業活動基本調査』、『経済産業省企業活動基本調査』、『工業統計調査』を使用し、親会社、海外子会社、国内事業所を接続したデータを構築することで、直接投資と地域レベルの雇用の関係を明らかにする。

なお、本研究では地域労働市場の単位として通勤圏を用いる。これは、通勤流動は必ずしも都道府県や市区町村といった法律で定められた地域に閉じたものでないため、実際の通勤流動から定められた通勤圏によって地域労働市場を定義することが望ましいと考えられるためである。

図

また、企業の海外子会社は製造(生産)活動に限らず、販売など非製造の活動も行っていることがあるが、本研究では、海外の生産活動と国内の生産活動の関係に注目するため、親会社が製造活動を行い、かつ、子会社も製造活動を行っている企業(これをオフショアリングと定義する)に注目した分析を行った。

分析の結果、オフショアリングは地域全体の雇用に対し、プラスに寄与していることが明らかとなった。その理由としては、例えば、Ito and Tanaka (2014)で示されたような、ある企業のオフショアリングによって、その企業の取引先企業の雇用が増えるというメカニズムを通じて、地域の雇用が拡大したということが考えられる。

ただし、オフショアリングが地域の雇用にプラスで有意な効果があるといっても係数の大きさそのものは非常に小さく、オフショアリングが10%伸びたときの効果は1%程度にすぎないことにも注意が必要である。経済的な規模(economic magnitude)は大きくないことを踏まえると、オフショアリングが地域雇用を拡大するというよりは、その地域の雇用を下支えする効果があると表現するのがより適切であると考えられる。

とはいえ、分析で得られた結果は、重要な政策的含意を有している。対外直接投資による産業空洞化の脅威が一時叫ばれていたように、企業の海外移転を支援する政策は、国内雇用に悪影響を及ぼす可能性があるため、議論を呼ぶことがある。本研究で導き出された結果は、こうした主張が事実ではない可能性を示唆している。ただし、本研究の分析では、オフショアリングが地域の雇用に及ぼす影響は期間を通じてプラスであるものの、2000 年代半ば以降はその効果が弱まっていることも確認されている。このようなオフショアリングの効果の変化については、今後注意が必要と言える。

参考文献
  • Ito, Keiko and Ayumu Tanaka (2014) "The Impact of Multinationals’ Overseas Expansion on Employment at Suppliers at Home: New Evidence from Firm-level Transaction Relationship Data for Japan," RIETI Discussion Papers, No. 14011, Research Institute of Economy, Trade and Industry (RIETI).