ノンテクニカルサマリー

コンパクトシティが移動距離、移動手段ごとの所要時間に与える影響の分析

執筆者 沓澤 隆司 (コンサルティングフェロー)/赤井 伸郎 (大阪大学)/竹本 亨 (日本大学)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.本論文の主旨

本論文は、都市の中心部に人口が集中しているコンパクトシティに関して、そのコンパクト度の高さが移動距離や歩行、公共交通、自動車といった移動手段ごとの所要時間に与える影響について検証を行うものである。都市のコンパクト度が高い状態の下では、その都市の市街地の規模が小さくなるために移動距離が短くなり、その結果、移動の手段としての公共交通や歩行による所要時間が大きなものとなる一方で、自動車の所要時間が小さなものとなり、最終的には、住民の良好な健康水準の確保、エネルギー消費や環境負荷の抑制に寄与することが予想される。その際には、都市のコンパクト度自体が内生的な変数であること、都市のコンパクト度が移動手段ごとの所要時間に与える影響の度合いも年齢、性別、職業や就業形態により違いが生ずる可能性を踏まえる必要がある。

そこで、本論文では、コンパクトシティと移動距離、移動手段ごとの所要時間との関係を検証するため、都市のコンパクト度の指標である「基準化された標準距離(NSD)」が移動距離、歩行、鉄道、バスなどの公共交通や自動車による移動手段ごとの所要時間に与える影響について、同時性バイアスを是正するために操作変数法を用いた分析を行うとともに、年齢、性別、職業や就業形態の属性別にNSDがもたらす影響について検証を行うものである。

2.分析に使用するデータ

本論文の分析において、被説明変数となる都市の移動距離や歩行、公共交通、自動車の移動手段ごとの所要時間を示すデータは、2015年に国土交通省が実施した「全国都市交通特性調査」の中の平日及び休日のトリップごとの所要時間と移動手段、トリップの距離によっている。また、都市のコンパクト度を示す「基準化された標準距離(NSD)」は、以下の式で示される。

また、NSDの内生性を踏まえて、都市計画法などの法令上市街地開発が可能な市街化区域などから構成される市街化可能面積を住民数で除した「1人当たりの市街化可能面積」を操作変数として分析を行う。

3.分析の結果

分析の結果、以下の点が分かった。

第1に、コンパクト度の高い都市では、目的地までの距離がより短いことが示され、移動に伴う時間コストが削減され、便益が生ずることがわかる。また、この傾向は、通勤や買い物を行う住民で多く発生するため、そのような住民が多い都市では便益が高くなっていると思われる。

第2に、コンパクト度の高い都市では、歩行による所要時間が長い傾向が認められる。この傾向は、通勤を伴う就労者が多い都市でより顕著である。歩行数の増加による運動量の増加を通じた住民の健康状態を改善する効果も発生することから、コンパクト度の高い都市では住民の健康水準も良好になっていると思われる。(下図参照)

第3に、コンパクト度の高い都市では、鉄道・バスなどの公共交通による所要時間が長く、自動車による所要時間が短い傾向が認められる。この傾向は、主として通勤を伴う就労者において顕著である。自動車による移動距離当たりのエネルギーの消費量やCO2の排出量は、鉄道、バスなどの公共交通のエネルギー消費量やCO2排出量より大きく、自動車の利用が少なく、公共交通の利用が大きい都市では、エネルギー使用や環境の負荷は小さくなっていると思われる。

今回の分析は、都市のコンパクト度の差が移動距離や歩行時間、公共交通、自動車の移動手段ごとの所要時間の差を生み出すという結果を導いており、コンパクト度が高まると、都市における利便性の増加や健康改善、環境エネルギーの負荷の低減といった便益をもたらすことが期待される。今後さらにこれらのコンパクト化の便益とその便益を拡大するための方策に関する分析を進めていく必要があると考えられる。

図 コンパクト度が歩行距離に与える影響の属性別分析結果
図 コンパクト度が歩行距離に与える影響の属性別分析結果