ノンテクニカルサマリー

中国における「ビジネス環境の最適化」の制度設計に関する考察――政策実践の学習と拡散の試行錯誤プロセスからみたガバナンス体制と仕組み

執筆者 孟 健軍 (客員研究員)/潘 墨涛 (清華大学国情研究院)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

近年、中国政府の改革の方向は、政策実施の重点領域の1つとして世銀が発表した「ビジネス環境の最適化」というイニシアティブに沿って国内行政改革を行っている。その結果、2018年以降に中国各地の“都市の商業環境”が絶えず改善され、「ビジネス環境の最適化」に向かう全体的な態勢が整備されている。

ビジネス環境という語義が政策用語として中央政府の政策体系の中に正式に採り入れられたのは2015年のことであった。中央政府が政策用語に取り入れると、ビジネス環境という語義は各レベルの地方政府に伝播され、中央政府から地方政府への政策の拡散が始まった。その後、李克強総理は2018年3月の『政府活動報告』で“「ビジネス環境の最適化」は生産力の解放、競争力の向上”と明確に打ち出し、制度設計の意味としたビジネス環境はさらに政府の各省庁、省レベルの地方政府の政策文書に表現されるようになっている(図1)。ビジネス環境という政策用語の拡散がこのように加速し始めた。

本稿はこのような考察に基づき、中国におけるビジネス環境に関する政策知識は、国際から国内へ、および地方政府から中央政府へのインタラクティブな交流を通じて、学習と拡散という二段階プロセスを経て習得され、以下の4つの政策知見が得られた。

1.“ベンチマーク”とした香港および“政策の窓口”とした広東省は、中国政府のビジネス環境の改革の“媒介”として重要な役割を果たし、政策知識を海外から国内に伝える重要なルートの1つである。とりわけ、香港政府の存在により、中国と国際機関との交流のルートは中央政府に限らず、香港は世銀のビジネス環境の評価を直接に受けることによって、中国国内の地方政府に対してベンチマークを提供した。

2.中国では中央政府自身の“政策の窓口”を開けることが容易ではなく、このような“政策の窓口”の持続的な開放はさらに困難であろう。広東省のような地方政府は、域外の経験を学んでビジネス環境に関する改革を進める“政策の窓口”として、先行学習の試行錯誤を探索する使命を担っている。

3.“政策の窓口”を開く期待がなければ、参加者であるほかの地方政府は気を緩める。彼らは、自分の時間、政治的資本、仕事のエネルギー、その他の資源を投入しても実績の得られない努力を注ぎ込もうとしない。そして、中央政府は地方政府の試行錯誤を踏まえて改革路線を絶えずに強化し、“政策の窓口”の開放を維持し、ビジネス環境に関する改革の知識を各レベルの地方政府に拡散していく。

4.各レベルの地方政府の参加により、ビジネス環境に関する政策実践の試行錯誤が拡大した。それに伴って、地方政府は“横の競争”というライバル心の中で経験を積み上げ、政策イノベーションを形成している。そして、それらの政策実践の経験が中央政府に吸い上げられて、さらなる制度設計を行う好循環が生まれている。

図1 ビジネス環境に関する年度別の政策文書の統計(件数)(2015年から2020年11月現在まで)
図1 ビジネス環境に関する年度別の政策文書の統計(件数)(2015年から2020年11月現在まで)
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出所:各級政府のウェブサイトにより筆者作成