ノンテクニカルサマリー

林業政策の経済分析

執筆者 山下 一仁 (上席研究員(特任))
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

木材は、林地にある立木が伐採されて丸太となり、それが製材工場等で製品に加工され、住宅メーカーなどの最終需要者に供給される。この数年森林・林業白書は、森林所有者の収入となる立木価格が大きく低下し、再造林のための費用を賄えないような水準となっていると、警鐘を鳴らしている。実際には7割ほどの造林補助金が交付されているほか、森林法により市町村長は再造林を命ずることができることとされていながら、伐採後7割の林地が再造林されていない。

森林・林業白書は、丸太価格から伐採・搬出コスト等を引いたものが立木価格であるとし、伐採・搬出コストを低下させることによって、立木価格を上昇できるとしている。しかし、補助政策によって高性能機械の導入が拡大し生産性が向上しているにもかかわらず、丸太価格と立木価格の価格差は縮小するどころか拡大している。他方で、製品の価格は、高い水準で安定的に推移している。丸太価格や立木価格が低下しているのに、製品価格は低下しない。

図 スギの価格指数の推移(1955年=100)
図 スギの価格指数の推移(1955年=100)

製品価格が安定しているのに、丸太価格は低下し、立木価格はそれ以上に低下しているメカニズムを、経済学の基本的なツールによって分析する。そのうえで、伐採・搬出コストを低下させるために実施している高性能機械導入の補助政策は立木価格の上昇をもたらすものではなく、丸太供給の増大によるその価格の低下により、立木価格の低迷ももたらしていることを示す。さらに、伐採を業とする素材生産業者への施策の拡充は、規模の大きい素材生産業者を増加させ、その森林所有者に対する独占力を増加させ、これまた立木価格の低迷をもたらした。

将来の森林資源の確保を図るためには、これまでのような間接的な政策ではなく、再造林を担う森林所有者に対するより直接的な政策に転換すべきである。多面的機能の観点からも、皆伐による林業生産の増大という政策から転換する必要があり、素材生産業者の独占性を軽減するため、森林所有者が組織する森林組合は、これまでのように造林に業務の力点を置くだけではなく、伐採業務への参入をより拡大すべきであろう。