ノンテクニカルサマリー

日本における中小企業の資本構成:都道府県間の類似性

執筆者 ヒュセイン・オズトゥルク(トルコ中央銀行)/安田 行宏(一橋大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

本稿では、日本の中小企業の資本構成に対する企業属性の決定要因が地域間で異なるのか否かを実証的に分析している。日本は、人口、資本集中度、産業分布などについて、地理的要因からみて多様性があり、分析対象として興味深いと言える。より具体的には、2007年から2019年を対象期間として、日本の中小企業の企業・年で合計約14万社のサンプルを用いて都道府県別に資本構成の決定要因の推計を行う。その推計結果に基づき、都道府県(&地方)レベルの地域間において、資本構成の決定について、異質性(Heterogeneities)、あるいは類似性(Similarities)があるのか否かを検証する。

本研究で注目する資本構成の決定要因としての企業属性は、①企業規模、②固定資産比率(対総資産比率)、③企業年齢、④ROA、⑤総資産成長率である。都道府県別に資本構成(負債比率)の決定要因として推計したそれぞれの係数を、順に\(β_1\)、\(β_2\)、\(β_3\)、\(β_4\)、\(β_5\)とすると、本稿における異質性(類似性)の検証方法は以下の手順で行う。

ステップ1として、47都道府県の全ての都道府県ペアを作る:1081通りとなる。ステップ2として、ステップ1の各ペアに対して①の係数(\(β_1\))が異なるかの検定を行う。すなわち、任意の都道府県\(x\)と\(y\)についての帰無仮説は、\(H_0^1: β_1^x = β_1^y\)となる。ステップ3として、ステップ2で棄却されないケースについて、地理的に集中しているのか否かについて、どの都道府県ペアかを見ることで確認する。そしてステップ4として、ステップ1~3を上記の残りの②~⑤の企業属性のそれぞれの係数に対して繰り返す。すなわち、合計で1081×5変数=5045の検定を行う(\(H_0^n: β_n^x = β_n^y \ for\ n=1,⋯,5\))。

以上のアプローチは、企業属性の係数が全ての等しいか否かで異質性を判定する先行研究のそれとは異なる点が一つの特長となっている。すなわち、先行研究における帰無仮説は、\(H_0^n: β_n^1 = β_n^2=⋯= β_n^{47}\)であり、いずれかの都道府県で係数が大きく異なれば帰無仮説は棄却されるという意味で、類似性の条件の検定が最も厳しい(異質性の検定が最も緩い)検証となっている。

本稿の分析結果としては、多くの都道府県における資本構成の決定要因として、①企業規模が小さいほど、②固定資産比率が高いほど、③企業年齢が若いほど、④ROAが低いほど、そして⑤総資産成長率が高いほど、負債比率は高くなる傾向にあることが分かった(表1)。

続いて、都道府県レベルで前述の分析を行うと、上記の①から⑤のすべての係数において都道府県のペアの係数が等しいという仮説が棄却されないケース(本文では\(H_0^1 H_0^2 H_0^3 H_0^4 H_0^5=11111\)と記す)は132ペアあり、全組み合わせの1081ペアに対して12.21%であることが分かった。一方、すべての係数で都道府県のペアの係数が等しい仮説が棄却されるケース(本文では\(H_0^1 H_0^2 H_0^3 H_0^4 H_0^5=00000\)と記す)は23ペアで2.3%のみであった。以上の点と、その中間に位置するもののペアの数を含め、全体として資本構成の決定要因が都道府県間でそれほど大きく異なるわけではないことが分かった(表2)。

本稿では以上の結果を踏まえながら、一国内での地域の多様性を踏まえた議論がなされる一方で、例えば、コロナ禍などに対する政策的インプリケーションとして、地域性を問わない一律の政策にも一定の合理性が認められることを含意している点について論じている。

表1 資本構成(負債比率)の決定要因
表1 資本構成(負債比率)の決定要因
表2 都道府県間の企業属性の類似性の検定のまとめ
表2 都道府県間の企業属性の類似性の検定のまとめ