ノンテクニカルサマリー

人口高齢化と中小企業退出

執筆者 胥 鵬(法政大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

急速な少子化により、日本の高齢者人口が大幅に増加している。高齢化は、単なる労働人口の減少ではなく、生産性、経済成長と投資の低下につながり、起業よる技術革新や技術吸収を妨げる。優れた技術を有する企業の参入と生産性の低い既存企業の淘汰がともに集計生産性の上昇に寄与する。高齢化に伴う技術革新が停滞すると、生産性の向上に寄与する参入と倒産がともに低下する。一方、技術革新が乏しく、新規投資が低下する人口高齢化経済において、既存企業間の資源再配分として吸収合併は生産性向上により重要な役割を果たすことになる。とりわけ、高収益の企業に買収されることによって、低収益の企業は高齢化に起因する長期利益の低下を未然に避ける。

本稿は、人口高齢化と中小企業の退出に与える影響を分析する。下表のmlogit分析結果からわかるように、人口高齢化が有意に中小企業の合併確率を高め、中小企業の破産や民事再生の確率を低める。ただし、主に中小企業経営者の高齢化に起因する休廃業解散に対して、人口高齢化は有意な影響を及ぼさない。中小企業退出に対する人口高齢化の効果は、60歳以下の経営者層にも確認される。円高で民事再生と破産が増える。長期金利低下とともに破産や合併が増加する。吸収合併される企業は、市場から退出した企業と比べて、収益性が優れ、負債比率が低く、規模が大きい。現金保有が比較的多く負債比率が低い営業赤字の小企業は、休廃業解散を選ぶ傾向が見て取れる。中小企業倒産の主な要因として、債務超過、経営不振と流動性不足が挙げられる。ただし、規模が大きい倒産企業は、破産などよりも民事再生や特別清算を選ぶことが多い。

表
[ 図を拡大 ]
***, **, *はそれぞれ1%、5%、10%レベルで有意

高齢化が進むにつれて、中小企業の活力を促進するカギは、中小企業M&Aや休廃業企業の引継ぎである。近年、M&Aによる経営資源の引継ぎを支援するため、M&A支援業者に支払う手数料、デューデリジェンスにかかる専門家費用などのM&Aに係る専門家等の活用費用を補助する事業承継・引継ぎ補助金及び中小企業事業再編投資損失準備金を認める経営資源集約化税制が講じられている。今後はこういった政策効果の検証が重要な研究課題になる。