ノンテクニカルサマリー

公的信用保証制度を利用した中小企業に対する越境融資

執筆者 鶴田 大輔(日本大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

本論文は、銀行が中小企業に対して越境融資(又は県外融資)を行う際、どの程度、公的信用保証制度に依存しているかを明らかにする。先行研究によると、銀行と中小企業の物理的な距離が長くなるほど、両者の情報の非対称性の問題が深刻になる。銀行は遠方の中小企業に対して融資を行う際、公的信用保証制度を利用することで、情報の非対称性の問題を緩和することができる。本論文は、銀行―都道府県―半期レベルのデータを使い、越境融資における銀行の公的信用保証制度の利用について実証的に分析した。

Ishikawa and Tsutsui(2013)が述べているように、日本の地域貸出市場の背景の特徴として、都道府県等で貸出市場が分断されていることが挙げられる。そのため、県外に立地する中小企業の情報を十分に有しておらず、情報の非対称性が深刻であると考えられる。しかし、近年、マイナス金利や銀行間の競争の活発化により、銀行の収益性が低下したため、銀行が越境融資をより積極的に行う傾向にある。日本経済新聞2018年6月14日朝刊「地銀の越境融資最高に」によると、貸出残高に占める地元都道府県以外向けの割合は、2010年代に上昇し続けており、2018年3月末には35%に達したと報じている。地銀の越境融資が活発に行われており、社会的な関心が向けられているものの、実証的な分析は尾崎他(2019)、植杉他(2021)といった限られた文献で行われているのみである。

本論文は中小企業庁がホームページ上で公表している、半期別の「信用保証制度の利用状況」における「信用保証協会別の金融機関別保証実績」や銀行の財務データ等を利用して、越境融資について分析した。分析期間は2018年度から2019年度の4半期分である。このデータを利用することで、同時点における同銀行における県外と県内の保証付き融資の動向を比較することが可能である。つまり、観察不可能な銀行の固定効果をコントロールした後の県内と県外の保証利用の差を推定することができる。同様に、同時点における同都道府県内の県外銀行と県内銀行の保証利用の差を推定することができるため、観察不可能な地域の固定効果をコントロールできる。

図表1:本店内外の1件あたり保証債務残高および代位弁済比率の差
図表1:本店内外の1件あたり保証債務残高および代位弁済比率の差
注:***は1%水準で統計的に有意にゼロと異なることを表す。

表1は被説明変数を銀行の自然対数変換後の一件あたりの保証債務残高、および代位弁済比率(代位弁済件数/保証融資残高件数)、説明変数を本店所在都道府県以外を1とするダミー変数(本店外ダミー)として回帰分析を行った結果である。回帰式には銀行、銀行×半期、都道府県、都道府県×半期、半期の固定効果がコントロールされている。分析の結果、本店外ダミーの係数はプラスであり、統計的に1%の水準で有意にゼロと異なる。列(1)の結果によると、銀行の本店外の都道府県における1件あたりの保証債務残高は、本店内の都道府県と比べて4.79%大きいことを示している。また、代位弁済比率の結果に着目すると、本店外ダミーの係数はプラスであり、統計的に1%の水準で有意にゼロと異なる。列(3)の結果から、代位弁済比率は本店内の都道府県と比べて、本店外の都道府県において0.17%高いことを表している。分析期間内の代位弁済比率の平均値は0.87%であることから、この効果は無視できない大きさであるといえよう。つまり、県外融資において1件あたりの保証付き融資額が大きく、代位弁済比率が高い傾向があった。この結果は、銀行は公的信用保証制度を利用して越境融資のリスクを軽減していることを示唆している。

この結果は以下のような政策的インプリケーションを有する。信用保証制度は他地域からの銀行の参入を促す効果があり、銀行間の競争を活発にする効果があると考えられる。中小企業側にとっては、資金供給が増加するため、資金の利用可能性が向上する。信用保証制度の目的が中小企業金融の円滑化であることを考えると、この効果は制度の目的と整合的である。一方、県外の銀行の信用保証制度の利用は、代位弁済率を悪化させる効果もある。既存の銀行が優良企業に対して十分に融資を行っているため、リスクが高い企業に対して県外銀行が信用保証制度を利用して融資を行っている可能性がある。これにより生じたデフォルトコストを銀行が信用保証制度に転嫁しており、この行動が財政コストを増加させている可能性がある。

参考文献
  • 植杉威一郎、平賀一希、真鍋雅史、吉野直行(2021)「金融機関の貸出・預金を介した地域間資金循環とその決定要因」金融庁金融研究センターディスカッションペーパーDP2020-10
  • 尾崎道高、今野琢人、廣山晴彦、土屋宰貴(2019)「地域銀行の越境貸出の動向」『日銀レビュー』19-J-4
  • Ishikawa, D., Tsutsui, Y., 2013. Credit crunch and its spatial differences in Japan’s lost decade: What can we learn from it? Japan and the World Economy 28, 41-52.