ノンテクニカルサマリー

技術的非効率性と企業行動:わが国の製造中小企業のパネルデータによる実証分析

執筆者 小川 一夫 (関西外国語大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

経済学では、企業のさまざまな生産要素の投入量と生産量の関係は生産関数によって描写される。企業は生産要素の投入量に応じて最大限生産可能な生産量を生産関数上の点として選択し、生産活動を営んでいる。しかし、同じ生産要素の投入量を用いても生産関数のフロンティア上よりも低い生産量しか産出されないならば、企業は技術的に非効率な生産を行っていることになる。このような状況では企業の生産性は明らかに低下する。

企業は、果たして生産関数上で技術的に効率的な生産を行っているのであろうか。もし、技術的な効率性が満たされないならば、技術的な非効率性はどの程度なのだろうか。この研究の目的は、中小企業庁が実施した『中小企業実態基本調査』のパネルデータ(2009年~2018年)を用いてわが国の製造中小企業(機械産業、重工業、軽工業)の技術的な非効率性を計測して、技術的に非効率な企業の特性を明らかにすることである。

具体的には、正規雇用、非正規雇用、資本ストック、原材料の4つの生産要素を投入物とするstochastic frontier 生産関数を推定することによって個別企業の技術的非効率性を求める。生産関数の推定においては、通常正負の値を取る確率変数を誤差項として追加するが、この通常の誤差項に加えて生産関数フロンティア上からの乖離を表す非負の確率変数によって技術的な非効率性を表して、生産関数の計測を行うのがstochastic frontier 生産関数アプローチである。

表には計測結果から得られた技術的非効率性の大きさが示されている。また、技術的非効率性がない場合に比べて、どの程度の生産量が産出されているのか技術的効率性の尺度も同時に示されている。生産関数としてトランスログ型生産関数を用いた場合には、効率性の尺度は、機械産業、軽工業、重工業においてそれぞれ88.34%、90.51%、88.99%である。

さらに、技術的非効率性指標の中央値に基づいて、企業を「非効率的企業」と「効率的企業」に分類して、非効率的企業の特徴を探った。その結果、非効率的企業には以下の特徴があることが明らかになった。

  1. 非効率的企業は、総資産で測った企業規模が小さい。
  2. 非効率的企業は、労働生産性、売上高営業利益率、設備投資の収益性である限界qでみた企業パフォーマンスが低い。
  3. 非効率的企業は、正規雇用比率が低い。
  4. 非効率的企業は、負債比率が高く財務状況が悪いにもかかわらず、借入金利子率が低く、金融機関から非効率な融資(追い貸し)を受けている可能性が高い。
  5. 非効率的企業は、設備投資、研究開発投資を実行している割合が低く、特許を保有している割合も低い。

では、技術的非効率性を改善するためにはどのような手立てが有効であろうか。この点についても定量的な分析を行った。その結果、負債比率を低下させて財務状況を改善し、設備投資の実行確率を高めることが、技術的非効率性を低下させる上で最も有効な手段であることが分かった。

定量的にみれば、負債比率の低下によって技術的非効率性は4.86%(機械産業)から5.81%(重工業)低下し、設備投資を実行していない企業が実行した場合に、最新の技術を体化した生産設備等の導入が可能となり、技術的非効率性が7.50%(機械産業)から9.83%(重工業)改善するのである。

負債比率の低下は、中小企業にとって金融機関からの借入依存度の低下を意味するが、設備投資の実行を促すためには、金融機関からの借り入れに代わる多様な資金調達手段を提供することが重要な課題となろう。

表 技術的非効率性の比較