ノンテクニカルサマリー

新型コロナ危機と企業活動:人流変化の影響と在宅勤務による緩和効果

執筆者 川口 大司 (ファカルティフェロー)/北尾 早霧 (上席研究員)/能勢 学 (国際通貨基金 / 東京大学)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

新型コロナ危機(COVID-19)による急激な人出の減少は、企業パフォーマンスにどのような影響を与えたのであろうか。本研究では、日本企業を対象に実施した調査をもとに、COVID-19 による人流変化が企業の売上・雇用者数・従業員一人当たりの労働時間にどのような影響を与えたか、またこれらの影響が在宅勤務の実施によっていかに緩和されたかを検証した。

政府の緊急事態宣言や感染症への不安による人出の減少は、企業活動を著しく低下させた。図1に示すように、大きな人流変化に直面した企業においてはパフォーマンスにより大きな影響がみられた。グーグルモビリティレポートで観察された人流の変化と、東京大学政策評価研究教育センター(CREPE)・東京商工リサーチ(TSR)による企業調査を用いて分析を行った結果、人流が10%低下することによって、平均して売上高は2.8%、労働時間は2.1%減少したが、雇用には影響がないことが分かった。雇用の変化が確認されないことは、日本においてはCOVID-19による雇用への影響が限定的であったことと整合的である。さらに、これらの影響を企業規模や産業ごとに分析すると、企業規模が小さいほど、また小売り・宿泊など接触の多い産業ほど、売上と労働時間への影響が大きいことが分かった。

図1 人流変化と売上・雇用・労働時間(注1
図1 人流変化と売上・雇用・労働時間
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こうした人流の減少による企業活動への影響は、在宅勤務が既に行われていた、あるいはショックを受けて在宅勤務者数を増やすことによって、軽減されたのであろうか。表1に示すように、COVID-19以前の2019年12月の時点で在宅勤務を導入していたことで、企業活動への影響が抑制されていることが分かった。人流の変化による影響と同様、雇用者数には効果がみられないが、売上高で約55%、一人あたり労働時間で約35%、人流減少による影響が緩和されたことが分かった。さらに、危機的な環境に対応して在宅で勤務する従業員数を増やすことによっても、売上と労働時間への悪影響が軽減されることが明らかになった。しかしながら、在宅勤務によるショックの緩和効果は企業の間で一様ではなく、接触の少ない産業に限定されており、接触の多い産業ではその効果が確認されなかった。

表1 人流変化と在宅勤務実施状況(2019)による企業活動への影響:
括弧内は標準偏差。* p<0.1, ** p<0.05, *** p<0.01
表1 人流変化と在宅勤務実施状況(2019)による企業活動への影響

コロナ危機は、人出を大幅に減少させることによって企業の売上や労働時間に大きなショックを与えた。COVID-19のような感染症に起因する経済危機に対し、在宅勤務を通じて労働投入の仕方を多様化することは、予期せぬショックを緩和する保険の役割を果たすことが確認された。その一方、人流変化による企業業績への影響は一様ではなく、在宅勤務による緩和効果にも異質性のあることが示された。

脚注
  1. ^ 各企業をモビリティの変化に応じて20のグループに分類し、各グループに属する企業の売上・雇用・労働時間の前年比変化率の平均値を示している。