ノンテクニカルサマリー

大都市から地方への移住における社会経済的要因の影響-Elastic net回帰を用いたポアソン重力モデルによる分析-

執筆者 荒川 清晟 (コンサルティングフェロー)/野寄 修平 (東京大学)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1. 背景

近年、東京をはじめとする大都市への人口の集中が大きな問題となっている。人口の集中により災害への脆弱性が生じ、また出生率の低い都市に人口が集中することで、日本の出生率の更なる低下につながるという問題がある。特に近年、東日本大震災や新型コロナウイルス感染症の感染拡大といった災害が発生しており、大都市への人口集中と、それに伴い生じる災害への脆弱性への対応は急務である。また、持続可能な開発目標 (SDGs)でも、目標11「住み続けられるまちづくりを」が挙げられており、レジリエントな都市づくりは世界的にも求められている。日本では2014年に「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定され、「地方への人の流れをつくる」ための施策が実施されている。

本稿は、市区町村間の人口移動に関連する因子の抽出を目的とし、2015年度の大都市から地方への人口移動データを対象として、様々な社会・経済的な変数を用いポアソン重力モデルを用いて分析を行った。

2. 結果

図1に、性・年齢別の移動者数を示す。男性が56.9%、女性は43.1%と男性がやや多く、年齢層では20、30歳代が半数、20~40歳代で全体の7割を占めていた。

図1:性・年齢別の移動者数(2015年, 10人未満の市町村を除く)
図1:性・年齢別の移動者数(2015年, 10人未満の市町村を除く)

図2は、人口移動に関係する変数の回帰係数をグラフ化したものである。帯がゼロよりも右側にある場合は人口移動と正の関係、左側にある場合は負の関係にあり、帯がグラフの両端にあるほど関連が強い。一般に、人口移動量とは、移動元、移動先の人口は正の関連、2都市間の距離は負の関連が関連しているとされるが、これらの変数は他の変数よりも人口移動量との関連が強く、さらに、距離は、人口、特に移動元の人口よりも関連が強かった。ほかには、移動先の市町村の第2次産業者就業比率が人口移動量との関連が強かった。

図2:人口移動数と関係する変数の回帰係数
図2:人口移動数と関係する変数の回帰係数

3. 政策的インプリケーション

分析結果から以下の2点の政策的インプリケーションが示唆された。

1. 近隣大都市からの移住者誘致
重力モデルの基本変数である移動元、移動先の人口と距離の回帰係数の絶対値を比較すると、距離の方が大きい。そのため、人口が多い遠方の地域から移住者を誘致するよりも、近くの大都市から移住者を誘致した方が効果的であると考えられる。

2. 高等学校・大学新卒就業時の誘致
移住元の第1次産業、第2次産業の比率は人口移動数と負の関係にあり、第1次産業、第2次産業就業者をターゲットとした移住誘致は、それほど効果がない可能性がある。しかし、これは同時に第1次産業、第2次産業就業者は、移住しにくいことを示唆しており、高等学校、大学卒業後の就業時に移住を誘致することができれば、その地域に長く定住する可能性がある。