ノンテクニカルサマリー

土地利用や近接性の変化が東京都内の不動産価格に与える影響の分析

執筆者 沓澤 隆司 (コンサルティングフェロー)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.本論文の趣旨

本論文では、東京都内のマンションの取引価格を元に、リピートセールス法による不動産価格の推計を通じて、商業用地や地震に関する建物倒壊危険度などの土地利用の状況や就業機会の存在する場所への近接性が不動産価格に与える影響を分析するものである。

こうした土地利用や近接性の不動産価格への影響の評価はクロスセクションデータに基づくヘドニック法によるものが多く、時系列的な変化による分析は十分に行われていない。しかし、こうした分析では過少な変数によるバイアスが批判されている。これに対して複数回取引された不動産を対象にその価格の変化を分析するリピートセールス法による不動産価格の推計をサンプル・セレクション・バイアスなどの課題に適切に対処した上で行えば、これらの土地利用や近接性の変化が及ぼす影響を適切に評価できると考える。そこで、本論文では、ヘックマンの2段階推定法を用いて、サンプル・セレクション・バイアスを補正したリピートセールス法を通じて、東京都内の土地利用の変化や就業機会の存在する場所への近接性(就業者近接性)が不動産価格に与える影響を分析するものである。

2.分析に用いたデータ

本分析に使用するデータとして、被説明変数となる不動産価格は、国土交通省が「不動産価格指数」を推計、公表するために収集している2005年4月から2019年3月までのマンションの取引に係る価格である。ヘドニック法による分析の対象となる不動産取引の全体数は117,452件に上るが、そのうちリピートセールス法の対象とする複数回取引の件数は6,447件(延べ12,894件)で全体の約11.0%となっている。リピートセールス法では、サンプル・セレクション・バイアスを回避するため、2回目の取引を行う選択についてプロビット分析による推計を行った上で、その選択によるバイアスを補正した価格関数を前提とする回帰分析を行い、その際に、地域の土地利用、地震時の建物倒壊危険度や就業者近接性の変化も不動産価格に影響を与えることを想定し、商業用地などの土地利用割合、地震時の建物の倒壊危険度や就業者近接性の指標を説明変数に位置付けた。ヘドニック法についても、同様の変数を説明変数として、リピートセールス法との比較検証を行った。

3.分析の結果と課題

分析の結果は下図に示すとおり、商業用地割合の変化、地震時の建物倒壊危険度の低下や就業者近接性指標の高まりが不動産価格を上昇させる効果をもたらすことが明らかとなった。今後は、都市の中心業務地域(CBA)へのアクセスの改善により実現する都市の構造変化、土地利用の変化や地震災害のリスク低下がもたらす経済活動への影響についてリピートセールス法を用いて明らかにしていくことが求められる。

図:土地利用、地震時の建物倒壊危険度、就業者近接性の変化が不動産価格に与える影響
図:土地利用、地震時の建物倒壊危険度、就業者近接性の変化が不動産価格に与える影響
注:商業用地割合と就業者近接性指標はそれぞれの数値が10%上昇した場合の変化を示し、建物倒壊危険度3以上は危険度が2以下に低下した場合の不動産価格の変化を示している。