ノンテクニカルサマリー

中国における行政許認可制度改革に関する一考察――集中許認可方式とリーンガバメント方式の比較分析

執筆者 孟 健軍 (客員研究員)/潘 墨涛 (清華大学)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

習近平時代の中国における経済構造改革が新たな領域に入り始めた。2013年から2017年までの第一期における地方政府の最重要課題の1つは、中央政府の機構改革の方針に従って、地方政府自身の行政改革を推進することであった。その背景として、2008年以降の中国における経済社会の発展段階が、改革開放30年の高度成長を経て、経済の下振れ圧力の下での質の高い成長への転換を求められていることが挙げられる。かつての粗放型改革の“ボーナス効果”が各経済分野で消え始めた後、より精緻化された経済構造改革が要求されている。そして、政府自身の機構改革が経済社会の発展を促進するために最も有力な改革分野の1つとされている。そのため、中央政府の「大部門体制」という機構改革の指導の下に、地方政府は試行錯誤しながら行政改革案を漸進的に作成し、とりわけ、行政許認可の領域を対象とした「大部門体制」改革の検討を行ってきた。

われわれのフィールドワーク研究調査の結果、行政許認可の領域の「大部門体制」改革は、「行政許認可局」の設立である集中許認可方式と行政手法の改善であるリーンガバメント方式という2つのモデルに収斂されていることが確認された。本稿では、この2つのモデルについて改革のロジック、改革のプロセス、改革のツール・方法、改革のコスト及び改革の効果の面で明らかな差異性を示した。また、初期条件、改革主導チームの発展志向、奨励のメカニズム、交渉能力の違いなどの比較分析を通じて、これらの要因の影響によって地方政府自身が2つの異なる改革の経路を選択したことを明らかにした。さらに、進行中の行政許認可制度改革が示した2つの経路は、将来的に「収斂」する傾向を呈するものと予想され、特に政治指導力か市場取引のいずれの形式を通じて関連技術が地域を越えて伝達される場合、このような「収斂」の傾向はより明確になると予測される。また、これによって、地方政府の行政許認可制度改革は近年、著しい成果を収めた。世界銀行Doing Businessの調査結果によると、中国のビジネス環境の世界ランキングは、2012年の91位から2020年の31位まで上昇し、日本とは2ランクの僅差となっている。

とはいえ、課題も多いため、これからの改革の3つの方向性を以下で明確にする。まず、中央政府は制度設計として「行政許認可局」設立という集中許認可方式を推奨しているものの、各地方政府での行政許認可制度改革の試行錯誤のための機会を延長すべきであろう。要するに、中国のような地域の差異性が大きく、かつ人口が多い大国において、各地で適用できる改革案をまとめるために必要な時間と知的コストはともに非常に大きく、一期とか二期とかの機構改革により10年間で完成することはほとんど不可能であろう。

次に、多様化の改革の経路と単一化の改革の目標の設定は、異なる地域の政府や社会文化環境の特質に基づいて、選択の必然性が検証されたように、各地方政府の合理的な判断によるべきであろう。そのため、未来のモデル普及の重点は、行政的意味の「技術手法の普及」と最上層部の制度設計に関連し、各地の異なった改革の経路の自主性を尊重するのも合理的な考えであろう。

最後に、リーンガバメント方式の技術手法の経路の経験を学ぶことは重視すべきであろう。これは地域に応じた制度設計推奨の経路以外で最も成功した改革の試みの1つであり、「ビジネス環境の最適化」に直接的な役割を果たした。従って、いかに政治的支援と市場の交流を通じて技術手法の普及コストを減らすかが問題解決の鍵であろう。

2つの改革モデルの基本的ロジックの比較
改革モデル 発想のロジック 行動のロジック 特徴
集中許認可方式
「行政許認可局」の設立
問題を漸進的に解決するロジック、
問題の本質を回避した「遠回しの解決策」の思考
行政体制構築の改革を急進的に遂行すること 急進主義の迂回的な変革
リーンガバメント方式
行政許認可プロセスの改善
問題を直接的に解決するロジック、
問題の本質に直面する「単刀直入の解決策」の思考
行政管理サービスの改善を漸進的に遂行すること 漸進主義の直接的な改革
出所:筆者作成