ノンテクニカルサマリー

責任共有制度のもとでの金融機関の信用保証利用態度―地域金融機関支店長アンケートに基づく分析―

執筆者 家森 信善 (神戸大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

1.はじめに

2005年の「信用補完制度のあり方に関する取りまとめ」(中小企業政策審議会基本政策部会)に基づいて、2007年10月に責任共有制度(部分保証)が導入された。これは、信用保証付き融資に関して一部でもリスクを負うようになれば、金融機関は信用保証付き融資についてもプロパー債権と同等の審査や企業支援を行うようになると期待したからである。導入直後にリーマンショックや東日本大震災が発生したために、100%保証の緊急保証のウエイトが一時的に高まってしまい、責任共有保証の割合は伸び悩んだが、緊急保証が終了してからは順調に比率が上昇し、2014年度以降は8割台を推移している。

さらに、2016年に、中小企業政策審議会基本問題小委員会金融ワーキンググループ(WG)は、責任共有制度の導入によって、「従前の100%保証の場合と比べて金融機関の支援姿勢の改善に一定の効果は得られている」が、「現行の責任共有制度の下で能動的な経営支援が十分に実施されているとまでは言えない」と判断し、「過度な信用保証への依存を回避し、プロパー融資を確保すること」を求める報告書を取りまとめた。この報告書に基づいて法改正が行われ、2018年4月に始まった新しい信用保証制度では、保証付き融資と並行してプロパー融資を実施してもらうことが原則とされることになった。

しかしながら、「現行の責任共有制度の下で能動的な経営支援が十分に実施されているとまではいえない」という金融WGの問題認識は、ヒアリング調査に基づいているのみであって、定量的なエビデンスに基づいたものとまではいえなかった。そこで、本稿では、RIETIが2017年1月(制度見直し前)に地域金融機関の支店長7,000人(回答者2,942人)に対して実施した「現場からみた地方創生に向けた地域金融の現状と課題に関する実態調査」(支店長アンケートと略称する)(詳しくは、家森信善編『地方創生のための地域金融機関の役割』中央経済社2018年)を利用して、金融WGの問題認識の妥当性を検証し、新しい信用保証制度のもとでの監督に対する含意を得ることとした。

2.信用保証付き融資とプロパー融資の審査や人事評価での違い

支店長アンケートでは、責任共有制度の対象になっている信用保証の付いた融資とプロパー融資(保証が全く付いていない融資)とで審査の厳しさに違いがあるかを尋ねてみた(問32(1))。その回答結果が図表 1である。部分保証であってもプロパー融資と「同等」の審査が行われているとの回答は46.7%にとどまり、「プロパー融資の方が厳しい」との回答がほぼ同数の46.3%であった。「プロパー融資の方が厳しい」という回答は、裏を返せば「信用保証付き融資の方が甘い」ということを意味しており、責任共有の対象についてプロパー融資と「同等」の審査が行われているのは半数程度に留まること、つまり、金融WGの問題意識が妥当であったことが確認できた。

次に、信用保証付き融資とプロパー融資とで、職員の業績評価上に違いがあるかを尋ねてみた(問32(2))。その回答結果が図表2である。「同等である」との回答が62.3%であり、多くの地域金融機関では、信用保証付き融資とプロパー融資は業績評価上同等に扱われているようである。しかし、注目しておきたいのは、「信用保証付き融資の方が高評価」という回答が27.5%ある点である。「信用保証付き融資の方が高評価」の場合が常に問題であるというわけではないが、職員に信用保証に過度に依存するインセンティブを生んでいる恐れがあり、信用保証協会や監督当局は当該金融機関の信用保証の利用実態をより丁寧に評価することが必要であろう。

図表1:信用保証付き融資(部分保証)とプロパー融資との審査の厳しさの比較
度数 列のN%
プロパー融資の方が厳しい 1362 46.3%
同等である 1374 46.7%
プロパー融資の方が甘い 87 3.0%
無回答 119 4.0%
合計 2942 100.0%
図表2:信用保証付き融資とプロパー融資の業績評価上の違い
度数 列のN%
信用保証付き融資の方が高評価 808 27.5%
プロパー融資の方が高評価 178 6.1%
同等である 1833 62.3%
無回答 123 4.2%
合計 2942 100.0%

3.信用保証利用姿勢との関連性

(1)信用保証付き貸出は職員の目利き力向上を阻害しているか

「信用保証付き貸出は職員の目利き力向上を阻害しているか」という質問に対しての回答から「阻害している」と判断する支店長と「阻害していない」と判断する支店長の比率が、審査の厳しさや評価の違いによって異なっているかを調べてみたのが、図表3である。これを見ると、信用保証付き貸出の審査が甘い金融機関や信用保証付き貸出の職員評価が高い金融機関のほうが、「阻害」していると感じる支店長が多く、現場レベルでも信用保証への「過度な」依存が問題視されており、その背景に審査や人事評価姿勢の問題があることが分かった。このことは、2018年の信用保証制度の改革の必要性を裏付けている。

図表3:「信用保証付きの貸出は職員の目利き力向上を阻害している」かの判断
阻害 阻害していない
問32(1) プロパー融資の方が厳しい(信用保証付きが甘い) 45.0% 55.0%
同等である 29.0% 71.0%
問32(2) 信用保証付き融資の方が高評価 41.3% 58.7%
同等である 33.7% 66.3%

(2)信用保証付き貸出に過度に依存している金融機関の特徴

支店長アンケートのさまざまな回答を利用して、プロパー融資に比べて信用保証付き融資の審査が甘かったり、職員評価が高かったりする金融機関とそうでない金融機関との特徴を比較してみた。その結果、信用保証に「過度に」依存している金融機関では、○金利よりも融資量の確保を優先している、○職場としてやりがいが低い、○営業活動で顧客との関係性を構築するのが難しくなっている、○事業性評価に取り組めていない、○既存企業に対する経営支援の取り組みを(相対的に)評価していない、○減点主義的な人事評価制度を取っている、といった傾向が見られた。

4.まとめ

本稿の結果は、2018年の信用保証制度改革の問題意識が妥当であったことを概ね裏付けているといえる。さらに、信用保証の利用自体が問題ではないのはもちろんであるが、新しい信用保証制度において、監督当局は、金融機関の審査体制や職員評価体系に着目して、中小企業支援の推進と整合的な仕組みが作られているかを「丁寧に」監督する必要がある、といった政策的な含意が得られた。