ノンテクニカルサマリー

中国におけるエネルギー価格改革の政策分析

執筆者 伊藤 公一朗 (客員研究員)/ZHANG Shuang (University of Colorado, Boulder)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

発展途上国を中心とした多くの国では、非効率なエネルギー価格が経済発展を妨げる大きな要因になっているとされている。本稿では、発展途上国において未だ一般的に使用されている固定エネルギー料金を消費量に応じたエネルギー価格に置き換えた、中国における最近の改革を検証する。

図1にあるように、中国の天津市では、暖房エネルギー価格改革が段階的に導入されたため、消費者の間で政策導入のタイミングが異なった。このタイミングの差を利用して政策の因果関係を推定する手法がEvent-study designと呼ばれる手法であり、本稿ではこの手法を利用して、価格改革が暖房消費量にどのような影響を与えたのかを分析した。

図2にあるように、政策導入後、暖房消費量が大きく減少したことが見られた。政策導入後4年目の効果を測定すると、政策全体の効果を示すIntention-to-treat Averageでは暖房消費量の31%の減少が見られた。政策介入を実際に受けた消費者への効果を示す Treatment on the Treatedでは36%の減少が見られた。また、消費者は徐々に暖房を効果的に節約する方法を学ぶことが観察された。これは、短期的な評価では政策への影響を過小評価してしまう可能性を示唆する。

また、図3で示されているように、政策導入後、消費者は徐々に賢い暖房節約の方法を学んでいったことが示唆された。また、こういった学習効果は特に低所得層に大きく見られることも分かった。

最後に、表1では、政策効果の社会厚生への影響を計算している。本政策は、61ドル(1家庭、1年あたり)の社会厚生向上をもたらしたことが示されている。政策の費用は1家庭あたり、99ドルであったことから、本政策導入後2年後には政策の便益が費用を上回ったと試算できる。

図1
図1
(注)上図は、新料金が導入された消費者の数を示している。
図2
図2
(注)上図は、新料金導入の全体の効果(ITT(Intention to Treat))を示している。 横軸は、政策導入後の時間の経過を示しており、例えば、4年目が9-11となっているのは、暖房の季節が12-2月の3カ月であるためである。また、図中の14カ所に見られる縦棒は95%信頼区間を示している。縦軸は暖房消費量の対数値である。
図3
図3
(注)上図のPanel Aは、介入を受けた消費者の平均介入効果(ATET: Average Treatment Effects on the Treated)(縦軸)をその日の平均気温により四分位(quartile)に分類して示したものである。quartile 1が最も寒く、quartile 4が最も暖かい。当初は、介入効果は似かよっているが、時間の経過とともに、暖かい日ほど介入効果が大きくなることが見て取れる。これは価格インセンティブのため、暖かい日に暖房消費を節約する方が賢いためで、時間の経過とともに消費者が学習し、より賢くなることを示している。Panel Bは、消費者を豊かさの代理変数である住宅価格によって2つのグループに分類したものである。より低い住宅価格即ちより低所得者のグループの方が学習効果が大きいことが見て取れる。
表1
表1