ノンテクニカルサマリー

資源企業における超過投資とマクロ経済的不確実性の関係

執筆者 Denny IRAWAN (Australian National University)/沖本 竜義 (客員研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

問題の背景

投資はビジネス活動において最も重要な要素のひとつであり、多くの先行研究がなされている。代表的な先行研究として、企業の標準的な投資水準は企業の特性から決定される投資関数の推定が挙げられる。実際には、各企業がこの投資関数に基づいて投資水準を決めているということはないものの、企業がどのような投資を行っているのかを分析する際、投資関数において定められる標準的な投資水準と比較することで、多額の投資を行っているのか、より少ない投資を行っているのかを分類することができ、多額の投資を行っている場合は超過投資、より少ない投資を行っている場合は過少投資と呼ばれている。このうち、超過投資については、企業が投資リスクを取った結果とも考えられ、過度なリスクの蓄積やバブルの発生および崩壊につながる可能性もあることから、重要な研究対象のひとつとなっている。

本研究の目的は、上記のような観点を踏まえ、企業の超過投資行動を包括的に分析することである。また、本稿では対象企業として、2017年における輸出総額が1.5兆ドルを超える規模であり、多くの国において輸出にしめる割合が大きい資源企業を取り上げることとした。具体的には、まず、資源企業の投資行動を確認し、セクターや国別に、超過投資の傾向があるかを明らかにすることを試みた。次に、超過投資を決定する経済的要因の特定を行った。最後に、超過投資が企業パフォーマンスに与える影響を明らかにすることも試みた。

本研究の主な結果

本研究で得られた結果は次のようにまとめられる。まず、第1のセクターおよび国別の分析においては、標本期間を通じて、林業・紙産業は超過投資を行う傾向があるのに対して、代替エネルギー産業は過少投資する傾向が観察された。また、鉱業は2008年の国際金融危機以前は超過投資の傾向があったが、それ以降は過少投資の傾向にあることが明らかとなった。また、国別にも興味深い傾向が観察された。図1は資源企業の超過・過少投資の指標の分布を国別にまとめたもので、横軸は超過投資の指標であり、値が0より小さければ過少投資、大きければ超過投資を表す。図1からわかるように、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、ロシアなどの新興国を中心に超過投資の傾向がみられることが確認された。また、超過投資を決める経済的要因を特定する第2の分析では、商品価格のインフレーションは、商品価格の不確実性よりも、企業の超過投資を誘発しやすいことが示唆された。自国の好景気については、2008年の世界金融危機以前は、超過投資を有意に減少させる傾向にあったが、世界金融危機以降は有意に上昇させることも確認された。さらに、国際地政学的リスクと超過投資の間に有意な関係は存在しない一方で、国際経済政策や国別ガバナンス政策の不確実性は、超過投資を有意に増加させることも確認された。最後に、超過投資と企業パフォーマンスの関係を分析した第3の分析からは、超過投資企業とそれ以外の企業のパフォーマンスに有意な違いは見られないものの、超過投資は、企業の3年後の収益に与える影響を向上させる傾向があることが示唆され、この傾向は特に鉱業で顕著であることが明らかとなった。

政策的インプリケーション

本研究の結果、セクター別には林業・紙産業、国別には新興国において、超過投資の傾向があることが確認された。また、超過投資は、商品価格の上昇、経済政策やガバナンス政策などの不確実性の上昇により、助長されることが明らかとなった。さらに、超過投資が、投資に対する企業の3年後の収益率を向上させることが示唆された。ただし、第3の分析結果に関して、超過投資が社会にとって望ましいことであることを必ずしも意味するわけではないことには注意が必要である。超過投資は、リスクの高い行動と考えられ、本研究の結果は平均的にそのリスクに見合うリターンが期待される可能性を示唆したに過ぎない。多くの資源企業がリスクを取ると、社会としては過度なリスクが蓄積されることになり、資源価格バブルの発生と崩壊などの要因のひとつになる可能性も否定できない。したがって、一般的には、政策当局者は資源企業の超過投資を抑制する必要があり、そのためには経済政策やガバナンス政策などの不確実性を低下させることが重要であることを示している点で、本研究の結果は、示唆に富むものであると言えるだろう。

一方、超過投資が、投資に対する企業の3年後の収益率を改善する傾向にあることが確認されたことは、部分的には、超過投資を補助することにより、資源分野におけるベンチャーキャピタルなどの育成につなげることができる可能性を示しており、政策的インプリケーションが大きいとも言える。本研究では、誕生してから10年未満のベンチャーキャピタルは、分析対象となっていないので、資源分野におけるベンチャーキャピタルの超過投資とその後の企業動向を分析することにより、この可能性を検証することは今後の重要な研究課題である。また、関連する課題として、資源分野において、技術革新や価格破壊を促進するために、超過投資が有効であるかどうかを検証することも考えられる。例えば、太陽光発電では、発電された電気を電力会社が買い取ることを国が保証する固定価格買取制度によって、超過投資が助長され、発電効率の上昇などの技術革新につながり、太陽光発電価格の下落が続いている可能性がある。本研究では、このような政策による超過投資の誘発とその帰結に関しては、分析対象とはなっていないため、これも今後の研究課題と言える。

図1:各国の資源企業の超過投資の分布
図1:各国の資源企業の超過投資の分布
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