ノンテクニカルサマリー

企業間取引における仲介企業:卸売企業の本社と事業所立地

執筆者 伊藤 匡 (学習院大学)/岡本 千草 (立教大学)/齊藤 有希子 (上席研究員(特任))
研究プロジェクト 組織間のネットワークダイナミクスと企業のライフサイクル
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「組織間のネットワークダイナミクスと企業のライフサイクル」プロジェクト

人口減少、および人口の都市への移動によって、地方経済はその活力を失ってきている。一方、特に中国をはじめとする近隣のアジア諸国は堅調な経済成長を遂げている。国内市場が縮小しつつある中、アジア経済の活力の取り込みは日本にとっての重要な課題のひとつである。しかしながら、地方の企業にとって、直接輸出するハードルは高く、卸売企業を活用し、間接的に貿易に関わることが重要であると考えられる。本稿は、企業・事業所個票データを利用して、輸出の要因としての情報と立地について考察を行い、また卸売企業と製造業企業の取引距離について観測事実を提示することにより、卸売企業・事業所を通じた間接輸出の可能性についての示唆を提示せんとするものである。

主たる観測事実は以下の二点に大別される。まず第1に、卸売企業事業所の輸出確率に関して、都市部に本社が立地していることが事業所の立地よりも重要であること、また同一企業内の他の事業所が輸出している場合に輸出確率が高いということが、記述的分析および計量経済分析により明らかとなった。この観測事実は、輸出のためには、本社や他の事業所が持つ輸出に関するノウハウが港や空港などインフラへの近接性よりも重要であることを示唆している。

第2に、卸売企業と製造業企業の間の取引に関して、地方の製造業企業は遠く都市部に立地する卸売企業を通じて間接輸出を行っているが(取引距離の中央値は165.24㎞)、同取引距離を最も近い事業所間の距離で計測すると本社間での距離よりも遥かに短く、3分の1から4分の1に縮小する(取引距離の中央値は38.38㎞)ことが明らかとなった。

また、卸売企業一社当たりの事業所数は製造業企業の一社当たりの事業所数よりも顕著に多く、本社と事業所間の距離も卸売企業の方が製造業企業よりも顕著に長いことも分かった。図1と図2はそれぞれ卸売事業所と製造業事業所について、東京に本社を置く企業と大阪に本社を置く企業の都道府県別の事業所分布を示している。製造業の事業所は本社の立地都道府県およびその近隣都道府県に事業所を展開しているのに対して、卸売事業所は全国に事業所を張り巡らしていることが分かる。

これらの観測事実は、都市に本社を置く輸出卸売企業が地方に事業展開することによって取引相手先を探索する費用を縮減していることを示唆している。

図1:卸売事業所の都道府県分布
図1:卸売事業所の都道府県分布
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図2:製造業事業所の都道府県分布
図2:製造業事業所の都道府県分布
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