執筆者 | 菊池 信之介 (マサチューセッツ工科大学)/北尾 早霧 (ファカルティフェロー)/御子柴 みなも (東京大学) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
本研究では、新型コロナウイルス(COVID-19) 危機が、日本の労働市場にもたらす多面的変化、特にさまざまな属性(性別・教育水準・雇用形態・産業・職業)の労働者に対して与える影響を分析する。はじめに、2017年就業構造基本調査を用いて、COVID-19危機の影響を受けやすい労働者の属性を特定する。その上で、感染拡大初期の消費支出データ(JCB 消費Now)を用いて、異なる属性の労働者に対してのCOVID-19危機による影響の差異を考察する。
分析の結果、COVID-19危機は低所得者層により大きな打撃を与え、労働市場における格差拡大につながる可能性の高いことが鮮明となった。
今回のCOVID-19危機は、過去の経済危機とは異なり、人との接触を伴うサービス業などの産業で、在宅勤務が困難な職業に従事する労働者への影響が、大きいと考えられる。人との接触の多い産業("Social sector")、それ以外の産業("Ordinary sector")、リモートワークなどの柔軟な勤務が可能な職業("Flexible occupation")、柔軟性の低い職業("Non-flexible occupation")とに仕事を分類し、就業構造基本調査に基づいて各タイプの仕事に就く労働者のシェアおよび平均賃金を計算したものを図1に示す。
危機に脆弱なタイプ(Non-flexible, social)はコロナ危機以前の所得もそれ以外のタイプに比べて低い。もっとも脆弱なタイプ(Non-flexible and social)は雇用者全体の約4分の1を占め、所得水準は4タイプの中でも最低水準となっている。
Ordinary | Social | |
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Flexible | 21.8% 4,794 |
23.7% 4,047 |
Non-flexible | 28.7% 3,865 |
25.9% 2,522 |
出所:2017年就業構造基本調査 |
さらに、労働者の属性ごとに職業・産業分布を分析すると、そのような最も危機に脆弱なタイプの仕事に就いているのは、性別では女性、教育水準では大卒未満、雇用形態では非正規雇用、といった所得水準が相対的に低い層に集中している。とりわけ、雇用形態別に見ると、最も脆弱なタイプの仕事についているのは正規雇用者のうち17%であるのに対して、非正規雇用者のうち44%がそういった最も脆弱なタイプの仕事に就いている。
分析の結果から、新型コロナ(COVID-19)危機は幅広い労働者に甚大な被害をもたらすが、その中でも特に低所得者層を直撃し、少なくとも短期的には所得格差を著しく悪化させる可能性が高いことがあきらかになった。これらの点を踏まえると、政府はリアルタイムで労働市場の変化を見極めつつ、危機の影響を受けて生活が困難となる個人を対象とした迅速かつ大規模な支援を行うことが求められる。