ノンテクニカルサマリー

銀行間の信用保証利用度の差に関する分析

執筆者 唐 秀偉 (東北電力大学)/内田 浩史 (神戸大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

本稿では、2010年10月から11月にかけて実施された企業向けアンケート調査「日本の企業ファイナンスに関する実態調査」から得られた銀行・企業レベルのデータを用い、信用保証協会が企業向け融資に対して提供している信用保証の利用について、銀行(信用金庫・信用組合を含む)間での比較を行った。

一般に、信用保証制度の利用状況の比較は、各銀行の貸出(融資)に占める保証付貸出の比率を用いて行われることが多い。しかし、保証付貸出の比率を用いた単純な比較には問題がある。こうした比率は貸手銀行側の要因だけでなく、借手企業側の要因によっても決まるからである。

この問題を例示したのが図1である。まず(A)に示したように、銀行1行が企業2社に対して行っている貸出について、保証付き融資の比率が分かったとしよう。もしケース1のようなデータが得られた場合には、銀行1は企業Aに対しては保証を多く利用しているのに対し、企業Bに対してはそれほど利用していないように見えるため、銀行1は必ずしも保証を多く利用する銀行には見えない。これに対してケース2のようなデータが得られれば、銀行1は企業Aに対しても企業Bに対しても保証を多く利用しており、信用保証を多く利用する銀行のように見える。

図1:保証付き融資比率における貸手側・借手側要因
図1:保証付き融資比率における貸手側・借手側要因

しかし、このように銀行一行だけのデータで信用保証利用の多寡を判断するのは適切ではない。このことを示すために、図1の(B)には他の二行に関するデータも合わせて得られた場合を示している。ケース1の場合、(A)では銀行1の保証利用は特に多くはないように見えていたが、(B)では他の銀行がいずれも銀行1よりも保証を利用しておらず、銀行1は比較的多く保証を利用する銀行であることが分かる。これに対してケース2の場合、(A)では銀行1はよく保証を利用する銀行に見えていたが、(B)を見ると他の銀行も2企業ともに多くの保証を利用している。このようなケースは、例えば企業AもBも比較的リスクの高い借手であり、どの貸手も保証により債権を保全しようとしている、といった場合に生じる可能性がある。このように、「そもそもその企業はどの銀行も保証を付与しようとするような企業かどうか」という点を考慮に入れた上でなければ、特定の銀行が保証を多く利用しているかどうかを判断することは難しい。

こうした点を考慮するために、本稿ではサンプルに含まれる企業それぞれを表す企業ダミー変数を作成し、企業固定効果をコントロールすることで、保証利用度のうち企業側の要因によって決定される部分を取り除いた。このようなアプローチが可能となるのは、本稿で用いたデータは各企業に対して最大の貸手と二番目の貸手の二者からの借入額と保証額に関するデータを含み、企業ダミー変数を説明変数に加えることができるからである。このため本稿では「全く同一の借手に対して各銀行が用いている保証比率」に相当する値を計算することができる。具体的な分析としては、まず第一の定式化として、以下のような銀行固定効果推計を行った。

guaranteed loan ratio = f(bank fixed effects, firm fixed effects)

この推定式は、企業固定効果(firm fixed effects)によって企業間の差異を取り除いたうえで、保証付き融資比率(guaranteed loan ratio)に銀行間で有意な差があるかを、銀行ダミーがとらえる銀行固定効果(bank fixed effect)によって取り出すものである。 また、第二の定式化として次の銀行属性推計も行った。

guaranteed loan ratio = f(bank fixed effects, firm fixed effects)

この式では、銀行固定効果を用いる代わりに各銀行の特徴を表す変数(bank characteristics)を用い、企業間の差異を取り除いたうえでも残る保証比率の差が、銀行の財務指標(自己資本比率、収益性、不良債権比率)や業態、銀行と借手の取引関係などに依存しているかどうかを明らかにするものである。

銀行固定効果推計からは、多くの銀行は保証の利用度に差がないものの、少数の銀行について、平均よりも統計的に有意に異なる過大な、あるいは過少な保証利用が見られることが分かった。その結果を示したのが図2である。ここでは、得られた銀行固定効果(各行特有の保証利用度)の大きさを、平均の値をゼロとして最も小さい銀行(左側)から最も大きい銀行(右側)まで順番に並べて示している(△印の曲線)。この図からは、多くの銀行は平均と大きく異ならない銀行固定効果を示しているが、左端、あるいは右端には平均と比較して非常に小さな、あるいは大きな値を示す銀行が存在することが分かる。このように、一部の銀行は他と比べて信用保証を過少、あるいは過大に利用していることが分かった。

図2:銀行固定効果とストックの保証比率
図2:銀行固定効果とストックの保証比率
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また図には同じ銀行に対し、公開されている統計から計算できる、残高ベースの保証付融資比率も同時に示している(■印)。一見して分かるように、2つの系列が示すパターンは大きく異なり、単純な残高ベースの保証比率の多寡は、企業固定効果を取り除いた銀行固定効果が示す多寡と整合的でない。このことは、各銀行の保証利用の状況を見るうえで、企業側の要因を考慮しない統計を用いることの問題点を明らかにしている。

これに対して銀行属性推計の結果からは、企業固定効果を取り除いた後の保証比率は銀行の特徴や銀行・借手間の取引関係を表す変数によっては説明されないことが明らかになった。このうち銀行の自己資本比率が保証付融資比率の説明要因になっていないという結果からは、銀行がリスクウェイトの低い保証付融資を増やすことで規制上の自己資本比率を増やそうとしているわけではないことが示唆される。また、銀行の収益性や不良債権比率が有意な影響を与えていないという結果からは、リスクの高い銀行ほど信用保証を利用しているわけではなく、この意味で信用保証がモラルハザードを招いているわけではないことが示唆される。

他方で、銀行ごとに保証利用度に差があるという銀行固定効果推計の結果と、銀行属性推計で用いた変数では保証利用度の差を説明できないという結果を合わせると、本稿では考慮できなかった銀行、あるいは銀行・企業レベルの要因(観察できない要因を含む)によって保証利用度の差が決まっていることが示唆される。そうした要因には、銀行のリスクと企業のリスクの交互作用(たとえば、リスクの高い銀行がリスクの高い企業のみに対して保証を過度に用いる)などが含まれるといった可能性は否定できない。

本稿の結果をまとめれば、こうした点についての更なる分析の必要性が示唆されるが、政策的な含意として、単純に銀行間の保証付融資比率を比較するのではなく、企業側の要因を考慮すべきことを強調したい。