ノンテクニカルサマリー

企業内貿易、投入産出関係と契約可能性:日系企業子会社データによる実証分析

執筆者 松浦 寿幸 (慶應義塾大学)/伊藤 萬里 (リサーチアソシエイト)/冨浦 英一 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト デジタル経済における企業のグローバル行動に関する実証分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「デジタル経済における企業のグローバル行動に関する実証分析」プロジェクト

1. はじめに

最近の国際経済学の実証研究では、世界の貿易額の大部分は多国籍企業による企業内貿易によることが知られている。例えば、米国の輸入の約半分、輸出では三分の一が企業内貿易であるとの指摘もある(注1)。こうした企業内貿易は、企業間貿易とは異なる特質を持つことも知られている。例えば、企業内貿易は企業間貿易に比べて負の外的なショックに対して頑健で貿易額の落ち込み幅が小さいことが知られている。具体的には、世界金融危機の際、世界的に貿易額が落ち込む「貿易崩壊」という現象が発生したが、企業間貿易の落ち込み幅に比べると企業内貿易の落ち込み幅は小さかったとの指摘がある(注2)。一方、中間財調達において、企業間取引であるアウトソーシングに比べて企業内取引は競争によるコストダウン圧力が弱いと指摘する研究もある(注3)。

こうした背景もあり、どのような国、産業、経済環境で企業内貿易が行われるのかについて多くの研究が行われてきているが、その多くは製品レベル、あるいは産業・国レベルのものが主流であった(注4)。しかし、最近になって企業レベル・データによる分析が可能となり、親子間の技術関係や企業特性について踏み込んだ研究が行われるようになった(注5)。本研究は我が国の海外進出企業を対象とする経済産業省「海外事業活動基本調査」の調査票情報を用いて日系多国籍企業の企業内貿易の特性を明らかにするとともに、その決定要因について分析するものである。

2. 日系多国籍企業の特徴

ここでは米系多国籍企業の企業内貿易を分析したRamondo et al. (2016) と対比する形で日系多国籍企業の企業内貿易の特徴を紹介しよう。次の表は多国籍企業の海外子会社の売上に占める親会社への輸出比率と中間財調達コストに占める親会社からの輸入比率の基本統計量である。この表から2つの事実が読み取れる。第一に、米系多国籍企業にくらべて日系多国籍企業はより積極的に企業内貿易を行っており、特にその傾向は子会社から親会社への輸出で顕著である。第二に、日系、米系ともに中位数が輸出ではゼロ、輸入でも日系で1%、米系で6%であることに示されるようにほとんど企業内貿易を行っていない海外子会社が存在することを意味する。つまり日米ともに企業内貿易は一部の企業によって行われていることが示唆される。

表1:日米の多国籍企業海外子会社の企業内貿易比率
表1:日米の多国籍企業海外子会社の企業内貿易比率

3. 企業内貿易の決定要因

本研究では企業内貿易の決定要因として親子間の投入産出関係と産業特性としての契約可能性(Contractibility)の違いに注目した。前者については、海外直接投資に伴う企業内貿易は親子間の垂直的分業に基づくとの考えを踏まえたものである。親子間で垂直分業を行っているということは親子の産業間に投入産出関係があるということになる。すなわち、企業内貿易は、親子の産業間における産業連関表から得られる投入係数の大きさに応じて活発になると考えることができる。後者は、差別化された財を中間財として使用する産業や部品品目数の多い産業ほど契約に基づき外部事業者から中間財調達をすることが困難で、中間財を内製する傾向にあるという考えを踏まえたものである。国際経済学ではこうした「契約のしやすさ」を産業別に計測しようという試みがあり複数の「契約可能性指数」が開発されている。これまでの研究によると金属製品や機械製造業などで「契約可能性」が低いことが指摘されている。

実証分析の結果、次の3つの点が明らかとなった。まず、親子の産業間の投入係数と企業内貿易の相関をみると、ほとんど統計的に有意な関係がみられなかった。この点は、米系多国籍企業のデータによる分析でも同様の結果が示されている。第二に、産業特性として「契約可能性」の違いに注目すると、「契約可能性」の低い産業の場合、垂直的関係にある海外子会社とより活発に企業内貿易を行うことが確認された。「契約可能性」が高い産業では、親子間に投入産出関係があっても中間財の市場取引調達が容易であることもあり企業内貿易があまり行われていないと解釈できる。第三に、この効果は、途上国、特に日本企業の主な投資先である東アジア地域に立地する子会社で顕著であった。途上国では契約履行に関する諸制度が十分には整備されていないため、特に「契約可能性」が低い産業で多国籍企業は企業内貿易による中間財調達を選択していると示唆される。

最後に、これらの結果を踏まえ特に途上国政府の観点からの政策的含意について考えよう。前述の通り、企業内貿易よりもアウトソーシングによる中間財調達のほうが競争による価格低下やアウトソース先の地場企業への技術移転などのメリットがある。多くの途上国が多国籍企業の誘致を政策目標として掲げていること、金属製品や機械製造業など「契約可能性」が低い産業で活発に海外直接投資が行われていることを踏まえると、途上国において契約履行に関する諸制度を充実させることが地場企業の多国籍企業との取引機会を拡大させ経済厚生を改善させると期待される。

脚注
  1. ^ Ruhl (2015) の指摘による。
  2. ^ Lakatos and Ohnsorge (2017) の指摘による。
  3. ^ Boehm (2018) の指摘による。
  4. ^ Corcos et al. (2013) 等を参照のこと。
  5. ^ 後述するRamondo et al. (2016)、あるいはChun et al. (2017)、Blanas and Seric (2018) を参照のこと。
参考文献
  • Blanas, S., and Seric, A. (2018) "Determinants of intra-firm trade: Evidence from foreign affiliates in Sub-Saharan Africa," Review of International Economics 26(4), 917−956.
  • Boehm, J. (2018) "The impact of contract enforcement costs on value chains and aggregate productivity," Discussion Paper No.2018-12, Sciences Po.
  • Chun, H., Hur, J., Kim, Y., and Kwon, H. (2017) "Cross-border vertical integration and intra-firm trade: New evidence from Korean and Japanese firm-level data," Asian Economic Papers 16(2), 126−139.
  • Corcos, G., Irac, D., Mion, G., and Verdier, T. (2013) "The determinants of intrafirm trade: Evidence from French firms," Review of Economics and Statistics 95(3), 825−838.
  • Lakatos, C., and Ohnsorge, F. (2017) "Arm’s-length trade: A source of post-crisis trade weakness," Policy Research Working Paper 8144, World Bank.
  • Ramondo, N., Rappoport, V., and Ruhl, K. (2016) "Intrafirm trade and vertical fragmentation in U.S. multinational corporations," Journal of International Economics 98, 51−59.
  • Ruhl, K. (2015) "How well is US intrafirm trade measured?" American Economic Review: Papers and Proceedings 105(5), 524−529.