ノンテクニカルサマリー

要介護度減少サービスと介護サービス供給

執筆者 小黒 一正 (コンサルティングフェロー)/石田 良 (財務総合政策研究所)/安岡 匡也 (関西学院大学)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

日本においては少子高齢化が進んでおり、人口の高齢化のために介護の総費用は増加を続けている。日本の介護サービス制度は主に公的な資金で賄われているために、介護の総費用の増加は政府支出を増加させることとなる。現に、日本の介護保険制度は2000年4月より始まって以来、一貫して要介護者は増え続けており、それに伴い介護の総費用も増加を続けており、介護保険制度の持続可能性に関する懸念がある。

そんな中で、一部の自治体では要介護度を低下させた事業者に対して報酬を支払う仕組みが導入されている。ある種のインセンティブ報酬ともとれるこの仕組みの狙いは、要介護度を抑えることで、自治体の介護保険の財政負担を軽くしたいということであると考えられる。たとえ、このようなインセンティブ報酬を支払うことが財政負担になるとしても、要介護者が減ることで介護の費用が減り、その効果が大きければ、結果的に財政負担は軽くなると言えよう。

一方で、要介護度を低下させることはその分、事業者にとっては得られる介護報酬が低下することを意味する。それは要介護度を下げるサービスの提供に対してディスインセンティブが働くであろう。

上記のような現状、問題意識に基づいて、本稿では、通常の介護サービスと要介護度を減少させるサービスの2種類の介護サービスを考慮し、これらの介護サービスの供給量の水準がどのように決まるかを導出した。なお、この導出に際して、これら2種類の介護サービスを同じ介護事業者が供給する場合と異なる介護事業者が供給する場合の2つを考えた。

分析の結果は次の通りである。これら2種類の介護サービスが異なるサービス供給者によって供給されている場合の要介護度を減少させるサービスの供給量は、2つの介護サービスの供給が同じサービス供給者によって供給されている場合の供給量と比べて大きいことを明らかにした。2種類の介護サービスを同じ介護事業者が提供する場合、要介護度を下げるサービスの提供は、通常の介護サービスから得られる報酬の減少をもたらすためであり、それを考慮するため、要介護度を下げるサービスの供給は少なくなるのである。これは上述のディスインセンティブが存在していることを示している。従って、ディスインセンティブによって要介護度を下げるサービスの供給が少なくなるのを防ぐ方法として、2種類の介護サービスをそれぞれ別の事業者が行うことが正当化される。

しかしながら、同じ介護事業者が2種類の介護サービスを提供する場合でも、要介護度を下げるサービスに対する報酬を引き上げることで、要介護度を下げるサービスの供給量を増やすことが可能である。また、介護報酬の全体額(ここでは、介護事業者に支払われる通常の介護サービスに対して支払われる報酬+要介護度を下げるサービスに対する報酬の合計であり)については要介護度を下げる報酬の水準を適切に設定することで最小化できることも明らかにした。要介護度を下げるサービスの報酬単価と介護報酬の全体額の関係は次の図の通りである。

図

要介護度を下げるサービスの報酬単価が低い場合は、それを増やすことで、介護報酬の全体額を減らせる。高い要介護度を下げることで介護報酬の支払いを抑える効果が大きいためである。一方で要介護度を下げるサービスの報酬単価が高い場合は、それを増やすことで、介護報酬の全体額はさらに増える。要介護度を下げるサービスの提供による高い要介護度を減らす効果が小さいためである。

なお、介護報酬の全体額を最小化する要介護度を下げるサービスの報酬単価は人口規模などによって影響を受ける。例えば、東京都のような人口規模が大きい場合、介護報酬の全体額を最小化するための要介護度を下げるサービスの報酬単価は大きくなる。通常の介護サービスのコストが大きい場合、介護報酬の全体額を最小化するための要介護度を下げるサービスの報酬単価は小さくなる。

また、本稿では、要介護度を下げるサービスの報酬単価が低い場合、介護報酬の全体額は2種類の介護サービスを同じ事業者が供給する場合の方が異なる事業者が供給する場合に比べて小さいことも明らかにした。