ノンテクニカルサマリー

データの共有と収益配分ルール

執筆者 小黒 一正 (コンサルティングフェロー)/石田 良 (財務総合政策研究所)/安岡 匡也 (関西学院大学)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

論文の概要と政策的含意

いま世界ではデータ産業革命が進行中であり、企業や個人が生成したデータの共有が新たな価値を生み出す経済が生まれつつある。この現象はデータ資本主義とも呼ばれるが、この代表がアメリカの「GAFA」であり、インターネット検索のGoogle、スマホの「アイフォーン」で有名なApple、SNS大手のFacebook、ネット通販大手のAmazonがビッグデータの蓄積を含む情報市場を席巻している。また、中国の「BATH」、すわなち、Baidu(百度)、Alibaba(アリババ)、Tencent(騰訊)、Huawei(華為技術)も情報市場で急速に勢いを増している。

このような状況の中、個人情報の保護にも留意しつつ、日本では「情報銀行」構想なども動き出している。しかしながら、各企業や各個人が生成あるいは保有するデータを互いに共有することで、追加収益を生み出すことができることが明らかであっても、データ共有で生み出した追加収益をどのようなルールで配分するのが適切かといった経済学的な基準は明確となっていない。

すなわち、データ共有の枠組みに参加する企業が増加するほど、各企業が受け取ることができる追加収益はより大きくなると考えられるが、例えば追加収益の配分ルールが存在しないケースでは、各企業は他の企業に及ぼす「正の外部性」を考慮しないため、共有するデータ供給量が社会的に最適な水準よりも過小になる可能性がある。

この問題を解決する方法の一つが追加収益の配分ルールを適切に設定することだが、この問題は自発的な公共財供給は一般的に過少供給となる議論とも似たメカニズムをもつ。Boadway, Pestieau and Wildasin (1989)は、自発的に公共財を供給するモデルにおいて、その供給に補助金を与えることによって、非協力的に公共財の供給が行われる場合においても最適な水準を達成することができる可能性を明らかにしている。

以上の問題意識に基づき、本稿では、各企業が生成あるいは保有するデータを自発的かつ互いに共有し合うことで新たな追加収益を獲得できる状況を想定に置きながら、データ生成を行う複数企業が存在する簡易モデルを構築し、社会厚生を最大化する収益配分ルールなどに関する理論的な分析を行っており、分析の結果、主に以下の3点を明らかにしている。

第1は、企業数が十分に大きく、一定の前提が成立する場合、分権的な意思決定の下で社会厚生を最大化する収益配分ルールは、追加収益を生み出す貢献度に概ね一致させること
第2は、各企業がその利潤を分権的に最適化するとき、どのような収益配分ルールに対しても、政府が一括税・補助金政策を適切に実行するならば、集権的な意思決定の下で最大化する社会厚生と同水準を実現できる
第3は、データ共有の補助を行う財源を追加利潤に対する比例税で賄う場合、補助率や収益分配ルールにかかわらず、各企業はプラットフォームに参加する誘因を必ずもつ

以上の分析結果から得られる政策的インプリケーションとしては、(1)集権的な意思決定ではなく、分権的な意思決定の重要性、(2)一括税・補助金政策、比例税といった市場の働きをなるべく損なわない政策の重要性が示唆される。

図
参考文献
  • Boadway, R., Pestieau P. and Wildasin, D.E. (1989) "Non-cooperative Behavior and Efficient Provision of Public Goods," Public Finance, 44(1), pp.1-7.