このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
特定研究プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「総合的EBPM研究」プロジェクト
輸出促進政策は世界各国で行われている活動であり、日本でも日本貿易振興機構(JETRO)や国際協力機構(JICA)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等が行っている。その活動の1つとして輸出展示会・商談会への参加支援があるが、その支援形態の遍在性から同支援の効果分析を行うことは重要であると言える。
このような問題意識の下、本稿では輸出展示会・商談会への参加の企業輸出に対する影響を分析した。具体的には、JETROより提供された展示会・商談会に参加した企業リストと、経済産業省「企業活動基本調査」の個票データを接合し、差の差(difference-in-differences、DID)推定法と固定効果推定法を用いて分析を行った。また展示会・商談会参加の輸出に対する影響のみならず、企業の海外直接投資(FDI)やサービスアウトソーシングに対する影響も分析した。
上記の因果効果推定を行う際に問題となるのが、内生性の問題である。例えば、企業の展示会・商談会参加と輸出ステータスとの正の相関関係は、展示会・商談会参加の企業輸出への因果関係を識別しているかもしれないし、他方で輸出を開始するような意欲的な企業は展示会・商談会への参加支援を利用する(自己選抜)という逆の相関関係を示しているだけかもしれない。
そこで差の差推定法では、豊富な観察可能変数(例、1期前の売上高、従業員数、輸出・輸入ステータス等)を用い、それらの特徴が似ている対照群企業を傾向スコアマッチング法によって選択した後に、差の差推定法を応用した(同様の結果は、マハラノビス距離によるマッチングやCoarsened Exactマッチング法でも確認されている)。それらの観察可能変数の中でも特に、各企業の国際事業部門で雇われている労働者シェアの変数は企業の輸出意欲を近似していると考えられ、その値が似ている企業間の輸出ステータスを比較することを通じて上記の内生性の問題に対処することを試みた。これらのマッチング法によって、処置群と対照群の企業の観察可能な特質はバランスしている。他方で固定効果推定法では、輸出先と展示会・商談会開催国の情報を用いて、企業-年、開催地域-年、企業-開催地域ペアの固定効果を用いることで、内生性の問題に対処した。
図1は、マッチングDID推定法によって求められた推定結果を図示したものである。それによると、輸出展示会・商談会参加の1期前の段階では、展示会・商談会参加企業と不参加企業の間での輸出確率に相違が見られない(これはマッチング法によるもの)。しかしながら輸出展示会・商談会の1期後には、参加企業の輸出確率は65.5%である一方、不参加企業の輸出確率は54.2%となり、この差である11.3%が展示会・商談会の企業輸出確率に対する処置効果であると言うことができる。この処置効果は、有意水準1%で統計的に有意である。同様の結果は、固定効果モデルによっても統計的に有意な水準で得られている。
上図の結果は輸出先地域を集計した効果であるが、展示会・商談会の効果は進出地域によって異なる可能性がある。例えば、アジア市場は地理的・文化的に日本から近接しているため輸出障壁は大きくないが、欧米市場は地理的・文化的に遠いため、後者の方が展示会・商談会に参加して買い手とマッチすることを支援する効果が大きいかもしれない。そこで展示会・商談会の開催地域に関するダミー変数との交差項を追加した固定効果推定を行うと、欧米市場の展示会・商談会に参加することは企業輸出確率を12.5%上昇させるものの(有意水準10%で統計的に有意)、アジア市場への展示会・商談会参加では統計的に有意な影響は観察されなかった。ただしこれは、長い歴史を有する欧米の展示会・商談会市場の方がより効果的なサービスを行っている等の、他の説明も排除しきれないため解釈には注意が必要である。
最後に展示会・商談会への参加のFDI、サービスアウトソーシングに対する影響を分析した。それによると、FDIや物流アウトソーシングに対しては統計的に有意な効果は見られないものの、市場調査アウトソーシングに対しては、展示会・商談会参加の(有意水準10%で統計的に有意な)4%程度の正の影響を観察した。