ノンテクニカルサマリー

経済社会構造転換に伴う高齢化政策に関する一考察――中国広東省F市J区の高齢者福祉施設の現地調査に基づく

執筆者 孟 健軍 (客員研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

中国は現在、社会保障制度体系の構築に向かって制度設計のさまざまな試行錯誤を行っている最中である。とりわけ、中国における高齢化の進捗状況は、世界に類を見ない高齢人口、急速な高齢化、地域間および都市農村間の大きな差異という3つの基本的特徴を持っている。そして、中国政府の高齢化政策は、このような特徴に基づいて、社会保障制度改革を中心に、如何に公平性を維持しつつ、効率性および持続性のある制度設計を実現していくかについてさまざまな試行錯誤を行っている。本研究は、このような制度設計背景を踏まえて、筆者が実施した広東省F市J区の高齢者福祉施設の現地調査に基づき、高齢者福祉施設における現状と諸問題点を検討しながら、政府による財政支援の必要性と民営施設の重要性について分析し、中国における高齢化政策および高齢化福祉サービスを総合的に考察し、中国政府の高齢化福祉制度構築の将来を展望する。

中国の取り組みの大きな特徴は、経済社会の構造転換に伴って、政府の政策意図に基づく社会保障制度体系に向かって上述のさまざまな制度設計の試行錯誤を行っていることである。これは具体的に以下2つに集約できる。まず、高齢化社会に向けての近年の制度設計は、現状と問題点を評価しながら、政府の政策意図が常に進化している。例えば、「第12次五カ年計画」の評価を踏まえ、「第13次五カ年計画」においては、広い意味での“養老体系”(高齢者福祉の提供だけでなく、人をいたわり世話することや老後を安楽に送ることを含んだコンセプト)という本格的な高齢者福祉サービス管理体制を包括的に試みているが、このような制度設計のプロセスは現実的であると言えよう。第二に、政府の高齢化政策は、高齢化福祉サービス体制を構築するために、政府自身の役割を重視する一方、政府と市場との融合の視点から企業や第三セクターの参入を積極的に採り入れている。このような政府による財政支援の必要性と民営施設の重要性の認識に基づく高齢化福祉サービスのメカニズム構築は、上述の広東省F市J区の現地調査の事例に示されている。

課題としては、多様なニーズを踏まえ、市場を利用する革新的なモデルの探求があろう。特に、高齢者の個人ニーズにあうようなハイレベルの福祉サービスは今後ますます必要である。そして、いかに介護人材を確保し、かつ定着させるという高齢者事業の課題の解決には、高齢化政策の持続的な取り組みが必要である。

将来の方向としては、2020年以降に導入予定の上述の広い意味での“養老体系” という本格的な高齢化福祉サービス管理体制に向けての対応を中国の新たな基本国策とし、政府の関係部門を動員して速やかに調整し、体制・メカニズム面からの制度設計を確実に行うことであろう。政府は2020年実施予定の第7回中国人口センサスをベースとした中長期の高齢化福祉サービスのさらなる制度設計の準備を始めているが、これに関して、今後の高齢化政策研究のフレームワーク提起が必要であろう。

例えば、最新の高齢化福祉サービスのビッグデータを使用した現状分析によると、高齢化サービスは9631、つまり在宅(96%)、社区(3%)と施設(1%)という形式が有効かつ経済的であるという分析結果となっているが、この形式が在宅生活の高齢者の習慣及び伝統的な高齢者扶養観念に一致し、かつ、トータルコストが相対的に低いことはもっとも重要のポイントである。このような形式によって、将来の高齢化社会の制度設計が再構築される可能性があろう。

中国の高齢化率は、2000 年に65 歳以上人口の割合が7%に達し、高齢化社会となっているが、中国高齢人口の将来推計をみると、2025 年には高齢者が全体の14%を占める高齢社会となり、そして2035年前後には全体の21%を占める超高齢社会に突入するとされている。さらに、80 歳以上の後期高齢人口は、2047年前後に1億人を突破すると予想される。政府がこのような未曽有の高齢化社会に対応して、如何に公平性を維持しつつ、効率性および持続性のある社会全体の高齢化制度設計を行うかはますます重要となる。

表:中国高齢人口の将来推計
年次 60歳以上人口 65歳以上人口 80歳以上人口
人口数(万人) 比率(%) 人口数(万人) 比率(%) 人口数(万人) 比率(%)
2015 21469 15.4 13518 9.7 2325 1.7
2020 25031 17.6 17363 12.2 2757 1.9
2025 29970 20.8 20370 14.2 3174 2.2
2030 36162 25.1 24590 17.1 4084 2.8
2035 40913 28.5 29918 20.9 5830 4.1
2040 42672 30.1 33791 23.8 6914 4.9
2045 44280 31.8 34844 25.0 8694 6.2
2050 47886 35.1 35889 26.3 11101 8.1
出所:Population Division of the Department of Economic and Social Affairs of the United Nations Secretariat, World Population Prospects 2017, https://population.un.org/wpp/Download/Standard/Population/